3.地衣類と化学分類

 

3-1.呈色反応(その2) Color test (spot test)

3-1-2.K・C・KC・Pテスト

【試薬】呈色反応には主に4種類,つまりK・C・KC・Pのテストがあります.KテストではK液を,CテストではC液,KCテストではK液とC液,PテストではP液を使用します.

・K液: 水酸化カリウム(KOH)の5~10パーセント水溶液[KOHの2.5gを水22.5mL(22.5g)に溶かせば10パーセント]

・C液: さらし粉の飽和水溶液.劣化しやすいので,1か月毎に作り替えます.
・P液: パラフェニレンジアミン(p-phenylendiamine)の2パーセント,エタノール溶液.
【参考:文献1】

【スポイトの加工】K液とC液は,ガラスを腐食するので,ガラス製の試薬瓶ではなく,プラスチック製のスポイト瓶で保存します.容積30mLのものが使いやすいでしょう.スポイトの先が太い場合は以下のように細く加工します.

 

スポイト瓶のスポイトの先を細く加工する
皮層むき出しに  

左のようなスポイト瓶(ポリエチレン製)を使用します.スポイト(中央)の先は,丸く大きくなっていますが,これでは呈色反応には適しません.

太すぎる先端とその少し根元をアルコールランプなどで熱し,柔らかくします(直火では燃えるので避ける).その部分が透き通ったら,先端をピンセットでつまんで一気に引っ張ります.すると細く伸びて,数秒で固まります.よく切れるはさみやナイフで適当な長さに切り落として出来上がりです.
【Kテスト】髄層のテストのうち,最初はKテストです.むき出しにした髄層に,K液を少量つけ,色の変化を見ます.10秒程度観察して変化がなければ,K-(ケーマイナス)とします.黄色あるいは赤っぽくなった場合には,地衣成分の種類によっては,時間とともに色が変化することがあるので,更に10秒,20秒と経過を観察します.最終的に黄色であれば,K+黄色とします.はじめ黄色で,後に血のような赤となれば,「K+黄色,のち血赤色に変化」とします.サラチン酸では,後者のような変化をします.
【Cテスト】反応が陽性となるものは,ほとんどが,C+赤色,あるいはC+淡赤色です.C液は漂白剤ですから,過剰に加えると,陽性反応(C+赤色など)の色が消えてしまうので,注意が必要です.C液を加えて,すぐに色を判定します.
【KCテスト】K液を付けて数秒後に,C液を加えて,すぐに判定します.

【Pテストの"簡便法"(文献1)P液はすぐに酸化し使用できなくなるため,頻繁に作り直す必要があり,面倒です.このため,以下のような"簡便法"が考案されています.極細の面相筆を用意します.ミクロ試験管か管瓶に2mLほどのエタノールを入れ,面相筆を浸し,その筆先で,パラフェニレンジアミンの大きな結晶の表面をなでます.筆先にはパラフェニレンジアミンのエタノール溶液がしみ込んだ状態になるので,これを試験部位に触れます.溶液は筆先から試料に簡単にしみ込むので,それで,判定します.

 パラフェニレンジアミンの大きな結晶が無ければ,直径2~3cm,高さ1cm程度の金属の器(全て金属でできた瓶の蓋のようなもの)に結晶を入れて熱し,溶かして固めておきます.

 結晶の表面は徐々に酸化し暗色になり,アルコール溶液は暗紫褐色となり,白い髄層に塗布したら,やはり暗紫褐色となります.これではP反応は起こりません.そこで,アルコールを浸した筆で暗色の結晶表面をなでて,筆をアルコールですすぎ,きれいにします.一度できれいにならなければ,きれいになるまで繰り返します.

【皮層のテスト】葉状地衣の上皮層については,通常はKテストを実施します.髄層と違って,皮層はもともと色がついて見えます(実際には藻類層の色と合わさって見えています).しかも,水を加えると(K液でも同じ),藻類層の色が目立つようになり,ウメノキゴケなどでは新鮮な場合には緑色が強くなります.このため,K反応の判定は難しくなります.そこで,試薬を加えて5~10秒程度したら,ろ紙で吸い取って,その色で判定します.

 

【文献1】吉村庸.1974.原色日本地衣植物図鑑.349 pp., 48 pls. 保育社,大阪市.