<概要>20世紀の半ばを過ぎたころの有機化学における分析技術の進歩が,地衣類の化学分類にも新しい手法をもたらしました.1970年代前後に,アメリカのカルバーソン(C.F. Culberson)等は,薄層(はくそう)クロマトグラフィーを,地衣成分の分析方法として標準化したのです.
ガラスやアルミの板の片面に,シリカゲルの粉の層が貼り付いている薄層プレートを使用します.アセトンなどで地衣類から抽出したエキスを,プレートの下のほうにスポットしておきます.ガラスでできた展開槽に展開溶媒(ここでは複数の有機溶媒を一定の割合で混ぜたもの)を少量入れ,そこにプレートを設置し蓋をし,静置します.すると溶媒がゆっくりとシリカゲル層を上っていきます.このとき,スポットに含まれていた地衣成分が,溶媒とともに上っていく速度が,地衣成分ごとに異なります.ある成分は溶媒が到達した線近くまで移動するかと思えば,ほとんど移動しない成分もあります.同じ成分でも,溶媒の種類によって速度が異なります. |
※ここまでは,ろ紙でなく薄層プレートを使うことを除けば,ペーパークロマトグラフィーと同じです.地衣成分は無色のものが多いので,硫酸を噴霧してからオーブンで焼き,あぶり出しのようにスポットが見えるようにします.焼く温度と時間がうまくいけば,地衣成分の種類によってスポットは異なる色となって現れます.ろ紙では,全体が焦げてしまうので,この検査はできません. |
|
そこで,カルバーソン等は,地衣成分の分析のために,3種類の溶媒を考案し,様々な地衣成分をこの方法で分析し,そのデータをまとめたのです.これを契機に,カルバーソン等の分析方法(文献1,2)が,地衣成分の標準的な分析法として,定着しました. |
もう少し詳しく →●「3-3.薄層クロマトグラフィー」のページへ |
 |
|
 |
ガラスタンクの中で展開中のTLCプレート |
|
展開後に乾燥,硫酸噴霧し,加熱したプレート |
|
(文献1)Culberson C.F. & Kristensson H. 1970. A standardized method for the identification of lichen products. J. Chromatography 46: 85-93.
(文献2)Culberson C.F. 1972. Improved conditions and new data for the identification of lichen products by a standardized thin-layer chromatographic method. J. Chromatography 72: 113-125. |
|