タイプ標本の種類

タイプ標本には様々な種類があると言いましたが,ここでは「藻類・菌類・植物のための国際命名規約」に関係する,つまり地衣類の場合にあてはまる,タイプ標本の種類を簡単に紹介します.話を単純にするために,新種発表の場合とします.

◆holotype ホロタイプ
新しい学名(新種など)の基準となる,ただ一つの標本.以前は正基準標本と呼ばれました.
◆isotype アイソタイプ

ホロタイプを分割した,重複標本(デュプリケート).ホロタイプに次いで重要なタイプ標本です.以前は副基準標本と呼ばれました.

◆syntype シンタイプ

旧基準の下では,複数の標本をタイプとして挙げることがありました.これらの標本を,シンタイプと呼びます.タイプ標本と明記しなくても,複数の標本を挙げた場合は,同様です.シンタイプの中から1点をレクトタイプに選定する必要があります.以前は等価基準標本と呼ばれていました.

◆lectotype レクトタイプ

旧基準の下では,新種発表時にタイプ標本を指定しなかったり,複数のタイプ標本を挙げたり(これらはシンタイプ)することがありました.のちの研究者が,その新種発表時に引用された,あるいは新種発表に用いられた,これらの標本の中から,ホロタイプに相当する1点を選び,レクトタイプとして指定することができます.以前は選定基準標本と呼ばれました.

◆neotype ネオタイプ

ホロタイプ(あるいはレクトタイプ)が完全に破壊,あるいは消失した場合には,これに代わるものとしてネオタイプを指定する必要があります.「neo」は新しいという意味で,以前は新基準標本と呼ばれました.

消失した地衣類のタイプ標本の例としてよく知られるのは,Bouly de Lesdain ブリードゥレスデンが新種記載したタイプ標本の多くが,第2次世界大戦中のドイツ軍によるフランス侵攻のとき(ダンケルクの戦い)に戦火で焼失したことです.日本でも,広島大学にあった堀川芳雄による蘚苔類のタイプ標本や,犬丸愨 (すなお)による地衣類のタイプ標本が,原爆により失われました.

◆paratype パラタイプ

新種発表時にホロタイプを指定したうえで,それ以外にタイプとして指定した標本をパラタイプといいます.

(執筆:原田浩,2021)
補足1:様々なタイプ標本の重複標本(デュプリケート)

「Holotype ホロタイプ」の重複標本は 「isotypeアイソタイプ」だとこのページの上部で紹介しました.重複標本は,タイプ標本の他の種類にも存在することがあります.それらの名称は,頭に「iso-」を付けます.つまり,isosyntype アイソシンタイプ,isolectotype アイソレクトタイプ,isoneotype アイソネオタイプ,isoparatype アイソパラタイプ,といった具合です.

補足2:語尾の違い(typeとtypusなど)

このコンテンツでは,タイプ標本に対し「●●type」(タイプ)という名称を用いましたが,「●●typus」(●●ティプス)という書き方もあります.後者は学名と同様にラテン語の表現で,命名規約に定められた基本となる表現です.一方,「●●type」は英語の表現です.近年では新種記載を伴う論文の多くが英語で書かれることから,タイプ標本の呼び方も英語で表現される機会が多くなっています.因みにラテン語の「typus」(ティプス)は単数形で,複数形だと「typi」(ティピ)になります.

(執筆:原田浩,2023)