きのこ小話2
  2 今昔物語のきのこ
 
 平安時代末期に成立したと考えられる今昔物語には,毒菌オオワライタケによる幻覚を記述したと推定される話や,毒菌ツキヨタケを美味なヒラタケと偽って食べさせ,人を殺そうとした話など,きのこを題材にした話が5話載せられています.
 昔から日本人が毒か食用かときのこに大いに悩みながら,うまいきのこの味がわすれられず,性懲りもなくあやしいきのこに手を出していた様子がうかがえます.
 ちょっと紹介してみましょう.
今昔物語に最も多い登場回数のヒラタケは以下の2つの話に登場します.
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「信濃守藤原陳忠落入御坂語28-38」
信州に赴任していた藤原陳忠(ふじわらののぶただ)は,任期満了で京都に帰る途中,馬もろとも谷に落ちてしまい,部下に引き上げてもらった.そうすると,まずヒラタケを部下に引き上げさせ,その次にヒラタケをたくさん抱えて自らあがってきた.そして言うことには,まだ下の方には沢山のヒラタケがあったが,残してきてしまった.「とてもくやしい」,と強欲を笑う話です.この時代には,ヒラタケが一般に食べられていたことを示すよい例です.
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「金峯山の別当毒茸を食いて酔わざる語28-18」
自分より上の位にある老僧が,別当という地位を長々と勤めており,一つ下の位にいる僧が「あいつさえいなくなれば俺が次の別当だ」と考え,毒菌ツキヨタケ(和太利)でその別当を殺そうとした,というものです.結局はうまくいかなかったのですが,だまそうとしたその時に「見事なヒラタケをもらい煮物にしたので是非食べて下さい」と勧めています.ツキヨタケの毒とともに,当時ヒラタケというものが美味なきのこであることが周知されていたことがうかがえます.ツキヨタケはブナの枯幹に特によく生じますが,著名な食菌であるヒラタケムキタケシイタケなども同じ枯幹に生える場合があり,その形態や発生形状が類似しており,昔から誤食されてきたことがわ
かります.



 この他にも、2つの物語「左大臣の御読経所の僧茸に酔いて死する語28-17」,「比叡山の横川の僧茸に酔い誦経する語28-19」に,ヒラタケ型の正体不明の毒キノコの話,が記述されているます.
 また
「尼共山に入り茸を食うて舞う語28-28」は舞茸(川村清一はオオワライタケだろうと推定している)を食べて尼さんと木こりが踊り出した話です.


オオワライタケ
 
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