フィールドノート No.2239

 2023/02/24(金)

 ありがとう、三島小

 この日は三島小学校での教室博物館、最後の開館日。さみしさをいっそう抱かせるような曇天の空だった。

 教室博物館は房総の山に関する調査研究、資料収集、県民の方々との交流の拠点として平成15年に開館した。令和2年3月、君津市立三島小学校は君津市立秋元小学校と合併して君津市立清和小学校となり閉校したが、その後も教室博物館は月2日開館し活動を続けてきた。最近になり跡地利用の計画が進み、教室博物館が使用してきた古い木造校舎の取り壊しが決まった。

 三島小学校は山に囲まれた自然豊かな学校で、私たちの「房総の山のフィールド・ミュージアム」の活動拠点としてぴったりの場所だった。最後の開館日、想い出のある校内の様子を目に焼き付けようと、敷地内を一巡りした。

 まずは、この木造校舎。この建物の一室、図工・家庭科室として使用されていた部屋が教室博物館。校内の石碑に刻まれた沿革によると、この校舎は昭和33年6月に落成した建物だ。なんと私とほとんど同い年だった(写真1、2)。

  • 写真1 教室博物館のある木造校舎(昭和33年築)
  • 写真2 教室のひとつ、図工・家庭科室が教室博物館

 風が吹くとガタガタと音が鳴るガラス窓は、私にはなんとも懐かしい(写真3)。ご近所に住むKさんのお話しでは、Kさんの小学校入学時の教室がまさにこの部屋だったそうだ。

  • 写真3 風が吹くとガタガタと鳴るガラス窓

 教室内には地域の方々や子供たちの協力により収集された生き物や化石などの標本、図鑑などが詰まっている。

  • 写真4 教室博物館内の様子

 ここで標本作りをしたり、来館者の方々と情報交換したり、子供達がいなくなってからは大人達が集う場所となっていた。教室の外はサルやキョンなど、獣の通り道だ(教室博日記No.2055)。アカミミガメが教室の前に来てくれたこともある(教室博日記No.1984)。

 こちらは新校舎と体育館(写真5、6)。この建物は残されて今後も活用されるようだ。

  • 写真5 新校舎と体育館
  • 写真6 木造校舎(左)と新校舎

 古い学校にお決まりの二宮尊徳像も建っているが、木の枝に覆われつつある(写真7)。

  • 写真7 二宮尊徳像

 新校舎の前にある枯れそうで枯れないカエデの古木(写真8)。この木からはいろいろな昆虫が発生して楽しませてもらったが、見た目が悪いからと切られてしまうだろうか。

  • 写真8 枯れそうで枯れないカエデ

 体育館の隣にある池(写真9)。人工の小さな池だが、一年中水が涸れず、昨年はキイトトンボがたくさん見られた(フィールドノートNo.2135)。この辺りには記念の石碑もたくさんあるので(写真10)、一緒に残されるとよいのだが。

  • 写真9 キイトトンボが多く見られた池
  • 写真10 校庭に残された石碑のひとつ「三島中学校跡」

 校庭の片隅には「よみがえる泉をたたえて」と記された看板が立っている(写真11)。

  • 写真11 「よみがえる泉をたたえて」の看板

 失われていた「みしまの銘水」を甦らせたことを記念して1989年に立てられたもののようだ。ここから少し下ると泉がある(写真12〜14)。私のお気に入りの場所のひとつだ。平らな地形の校庭から少し下っただけで、なぜここに水が湧いてくるのか不思議に思う。

  • 写真12 泉へ下りる坂
  • 写真13 現在の「みしまの銘水」
  • 写真14 崖から絶え間なく染み出る湧水

 さらに一段下は昔は田んぼだったのだろうか、湿った谷津となっている(写真15)。いつか教室博物館の前に現れたアナグマもこの谷へ下りていった(教室博日記No.1990)。人手が入ることもなく、今は野生動物にとって安心して過ごせる場所なのだろう。

  • 写真15 泉の下の谷津

 季節柄もあり、尚のこと寂しい様子の三島小だったが、校庭にボケの花が一輪咲いていて気持ちがほころんだ(写真16、17)。

  • 写真16 花芽が膨らんだボケ
  • 写真17 一輪だけ咲いていた

 教室博物館は4月から清和小学校へ移転し、「清和小教室博物館」として新しく生まれ変わる。4月14日から毎月第2、第4金曜日の11:00~16:30に開館の予定。場所は山から少し離れるが、清和小学校は子供たちの通う現役の小学校。心機一転、また子供たちと一緒に魅力ある教室博物館にしていきたいと思う。

 最後に、入口ゲートに3月中の教室博物館3月の臨時休館と移転のお知らせを掲示して三島小を後にした。

  • 写真18 臨時休館と移転のお知らせ
  • ニホンザル Macaca fuscata(オナガザル科)
  • キョン Muntiacus reevesi(シカ科)
  • アカミミガメ Trachemys scripta(ヌマガメ科)
  • ニホンアナグマ Meles anakuma(イタチ科)
  • キイトトンボ Ceriagrion melanurum(イトトンボ科)
  • ボケ Chaenomeles speciosa(バラ科)

(斉藤明子)