フィールドノート No.2288

 2023/09/01(金)

 まんまとだまされた、ツノガイダマシの化石

 木更津市内にて。この場所では約10万年前の内湾にたまった砂層が観察できる。崖下に細長い物体が落ちていたので、拾い集めた(写真1)。

  • 写真1 細長い物体(目盛りの単位はミリ)

 ツノガイ類の化石だろうか。ツノガイ類については、過去のフィールドノート(No.2226No.2257)でも紹介した。漢字で書くと角貝。文字通り、角(ツノ)のような殻を持った貝類だ(写真2)。殻は成長に伴って太く長くなる。

  • 写真2 ツノガイの化石(目盛りの単位はミリ、市原市産)

 中空で両端が開いていて、細い方は殻頂、太い方は殻口と呼ばれる。生きているときは、殻口(写真3)から軟体部を出して砂に潜るらしい。

  • 写真3 ツノガイの殻口(直径は約5ミリ)

 崖下で拾った細長い物体(写真1)も、ツノガイ類の化石と思っていた。しかし、よく見るとツノガイダマシと呼ばれる多毛類(たもうるい:ゴカイの仲間)の棲管(せいかん:管状の巣穴のこと)の化石で、貝類ではないことに気付いた。まんまとだまされてしまった。ある生物に似ているが、よく見ると異なる生物が見つかると、名前に「~ダマシ」と付くことがある。大体は貝類同士のような近縁な生物だ。ツノガイとツノガイダマシは、貝類と多毛類の見分けが付きにくいという衝撃的な事例だ。試しにツノガイダマシとツノガイを並べてみると、そっくりだ(写真4)。

  • 写真4 ツノガイ(左)とツノガイダマシ(右)の化石(目盛りの単位はミリ)

 ツノガイダマシとツノガイ類を見分けるポイントは2点ある。ツノガイ類は殻口で殻が最も広くなるが、ツノガイダマシは殻口がすぼむ点で異なる(写真3、5)。

  • 写真5 ツノガイダマシの殻口(直径は約1.5ミリ)

 殻断面も異なり、ツノガイダマシは2層構造になっている(写真6)。殻の外側は半透明で黄色っぽい色の層、内側は不透明で白色の層で形成される。ツノガイ類の殻断面は2層構造にならない(写真3)。

  • 写真6 ツノガイダマシの殻の断面(目盛りの単位はミリ)

 今ほど生物の知識が蓄積されていなかった時代の話だが、新種のツノガイ類として報告された標本を別な研究者が再検討したら、ツノガイダマシだったという事例まである。紛らわしいヤツだが、よく見ればだまされずに済む。

  • ツノガイダマシ Ditrupa gracillima(カンザシゴカイ科)
  • ツノガイ Antalis weinkauffi(ゾウゲツノガイ科)

(千葉友樹)