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展示にあたって :展示のコンセプト・・・何を紹介したかったか・・・

展示企画担当 地学研究科 八木 令子

五百沢智也氏(中央) 展覧会場にて
五百沢式鳥瞰図の例 南からの剣沢と剣岳
 鳥瞰図は地形景観や都市景観を表現する方法として古くから利用されてきましたが、実際には見えないものを大胆に表現したデフォルメ図が多く、鳥のように上空から見た地形景観を正確に描いたものは多くはありません。

 しかし1970年代から山岳雑誌に長期間掲載された五百沢(いおざわ)智也(ともや)氏(千葉県一宮町在住)の日本アルプスやヒマラヤを描いた鳥瞰図は、氷河地形研究者としての地形を見る確かな眼と、飛行機から自分で撮影した斜め空中写真を実体視する技術に基づいて描かれており、高さの誇張がないことや、実際の景観を詳細にスケッチしているという点で他の鳥瞰図とは異なります。

 またこれらの作品は、氷河の痕跡地形を表現するなど、地形を判読・分類しながら描いているところに特徴があります。

 千葉県立中央博物館では、より多くの人にこのような鳥瞰図を見てもらいたいと考え、2006年3月3日から5月27日まで、「山の科学画」というタイトルで展示会を行いました。

 ここでは、槍・穂高連峰などの日本アルプスやヒマラヤの鳥瞰図の原画や拡大画を、地理的な分布に基づいて系統的かつダイナミックに展示しました。

 また作品のもとになった斜め写真、あるいは同じ視点からのパソコンによる画像などを合わせて展示し、普通とは異なる“五百沢式地形鳥瞰図”の特徴を伝えました。

 さらに図に描かれた地形の解説も行い、これらが単に「自然景観を描いた絵画」ではなく、写真よりも多くの情報を提供し、山の成り立ちが読み取れる「自然の客観的な観察記録」、すなわち「科学画」であることを示しました。

 なお五百沢氏の作品は、本や雑誌などに掲載されているもの以外にも良いものがたくさんあります。

 この展示会では、そういう隠れた作品をできるだけ紹介するとともに、いつも見慣れた房総半島を逆さまに描いた「千葉県地形鳥瞰図」、地表面の形状を地性線のみで立体的に描いた「日本列島地貌図」、山座同定に役立つ「山の似顔絵式展望図」など、新しい視点で描かれた鳥瞰図も多数展示し、五百沢氏の全作品を紹介することを目指しました。

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