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大項目「ステレオ写真を使って山を描く」
  ステレオ写真を使って山を描く

 鳥瞰図には、一定の図法に基づいて厳密に描かれた図や、実際には見えないものを大胆に表現したデフォルメ図などがあります。
また最近は、数値情報を基にコンピュータで作成したデジタル画像もよく見られます。
 五百澤智也氏の鳥瞰図は、これらとは違い、飛行機から撮影した斜めの空中写真を実体視するという、独特の方法によって描かれています。
 この方法によって描かれた鳥瞰図は、
  @高さの誇張がない、
  A実際の景観をスケッチしている  という点で、他の鳥瞰図とは異なっています。

 ここでは、このような鳥瞰図を「五百澤式地形鳥瞰図」と呼び、北アルプス剣岳周辺を例に、その作成方法を紹介します。
 
また作品の主題である氷河地形について解説します。
五百澤式地形鳥瞰図の描き方
 五百澤式地形鳥瞰図の特徴


 五百澤式地形鳥瞰図は、地形図が利用できない、あるいは間違いの多い地形図しかない地域で調査を行うにあたり、「地図の代わりになる展望図」を描きたいと考案した手法です。

 また空からしか見えない、絶好のアングルの地形景観を再現し、研究者の共有のデータとするため、ステレオ写真の実体視で得られた立体像を基に、地形の判読・分類をしながら描いた、「鳥瞰詳細スケッチ」といわれる作品も多数あります。

 これらの鳥瞰図は、一言でいえば、両目の幅が1kmある巨人が眺めた景観を復元したようなもので、正確性を重視した「斜め横から見た地図」、あるいは「地形の観察記録」であるとともに、「臨場感のある絵画」でもあります。
057 (解説ファイル) 普通の鳥瞰図の作り方

五百澤式鳥瞰図の特徴を知るために、

普通の鳥瞰図の作り方をご紹介します。





 内容は、 こちら をご覧ください



文および図、吉村光敏作成

 五百澤式地形鳥瞰図の作り方



(1) 空中斜め写真の作成


 描く範囲が重なるように、適切な位置から撮影した2枚の連続写真(ステレオ写真)を用意します。
 
実体視ができるように、それぞれの写真主点を結んだ基線(赤い線で示されている)を同一直線上にそろえてセットします。


(2) 実体視による地形判読

 ステレオ写真を、左右の目で同時に見ると、重なった部分の立体像が浮かび上がってきます。 これを実体視といいます。

 実体視で得られた立体像から、稜線、山脚分岐点、岩壁の形態、河原の範囲、滝など地形の様子を判読し、写真上に赤鉛筆(デルマトグラフ)で描示します。


(3) 地形判読による下図作成

 写真の上にトレーシングペーパーやケント紙などを置き、判読した線を鉛筆で転写していきます(a)。

 b は完成した下図です。

(4) 墨入れによるペン画作成

 写真を再判読し、下図で描いた線が正しいか、地形をうまく表現しているかを確認します。

決定した鉛筆線に、丸ペンと製図用インクで墨入れし、ペン画を作成します。

ここがポイント・・・地形表現の要領

・初めに尾根線、谷線、傾斜変換線など地形表現の骨組みの部分を描き、 その後斜面の細かい特徴を肉付けする
・斜面は最大傾斜方向の平行線か、それに直角な線の使い分けで表現
・現存氷河、過去の氷河地形に関連する地形は丹念に表示
・地質岩石の様子が地形に表れているところは、できるだけそれがわかるように表現

 例は、中央アルプス南駒ケ岳、中央に、氷河地形の摺鉢窪のカールがある。


(5) シェーディング画(ぼかし)の作成


 ペン画原図にトンボ(位置の印)をつけ、位置を合わせながら、別の紙に植生の茂った地表面の様子を鉛筆で表現します。この時使うのはE(エキストラ)EB(現在は8Bに変更)などの極やわらかい鉛筆です。
(6) ペン画とシェーディング画の合成

トンボを目印に、ペン画とシェーディング画を合わせ、印刷をします。シェーディング画の濃さを加減することによって、完成図の印象は変わってきます。 

五百澤式鳥瞰図の制作例・・・・剣立山連峰東面  原画4種とそれを組み合わせた印刷図
069 (原画1:ペン画) 剣・立山連峰東面 

寸法 555×300mm
070 (原画2:遠景シェーデイング) 剣・立山連峰東面 

 寸法 555×300mm
071 (原画3:植生シェーデイング) 剣・立山連峰東面 

寸法 555×300mm
072 (原画4:ネーム版) 剣・立山連峰東面 

寸法 555×300mm
074 (069-072の合成完成図) 剣・立山連峰東面

出典 岳人329号(1974) 鳥瞰図譜=日本アルプス(1979) 山と氷河の図譜(2007) 寸法 640×258mm
五百澤式鳥瞰図は、拡大すると、迫力満点になる 
完成した印刷図は、A3版以下の小さなものですが、精密な絵なので、大きく引き伸ばして、迫力ある姿を鑑賞することが可能です。

073 (背景拡大パネル) 剣・立山連峰東面


出典 岳人329号(1974) 鳥瞰図譜=日本アルプス(1979) 山と氷河の図譜(2007) 寸法 1735×830mm
制作用具
065  ステレオ写真撮影用カメラ

 MAMIYA PRESS SUPER 23 6×7版(2台交互に撮影)
066  空中写真撮影結果 79年 北アルプス斜め写真密着記録 1
067  空中写真実体鏡

068  鳥瞰図作成の作図用道具類:丸ペンなど



すずり、筆、墨、セーム皮、硯箱など
五百澤氏の製図作業机 ・・・・この画像は今回の記録用CDのために追加しました。

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