企 画 展

平成11年8月10日から9月15日まで開催されました。


 我が国最大の流域面積を誇る利根川は、悠久の流れの中で歴史を見つめてきました。豊かな自然を育みながら様々な物資を運び、町を賑わし、産業を発展させました。流域で暮らす人々にとって川は生活の糧であり、多くの恵みをもたらすありがたい存在です。しかしその反面、川は洪水や水難事故などによって人々の生命や財産を脅かす恐ろしい存在でもあったのです。
  利根川に生きる人々は日々何を思い、どんな願いを胸の内に秘めていたのでしょうか。それを知る手がかりになるのが絵馬です。本企画展では、高瀬船や河岸の賑わい、改修工事など利根川の様子を描いた様々な絵馬を一堂に展示・紹介しました。


1 河川交通絵馬  2 河岸絵馬  3 生業絵馬  4 水難災害絵馬  5 河川工事絵馬  

展示資料一覧  展示協力者

河川交通絵馬
 利根川・江戸川を盛んに往来した川船の代表が高瀬船です。
米など様々な物資を運び、流通の担い手となりましたが、その
一方で社寺参拝者らを乗せるなど観光船の役割も果たしまし
た。明治に入って外輪蒸気船通運丸が登場し、時代の移り変
わりの中で新旧の船が川を賑わせました。鉄道など陸上交通
の発達により河川交通は衰退していきますが、絵馬によってか
つての雄姿をしのぶことができます。船を描いた絵馬の多くは
航行の安全を祈ったり、無事の帰港を祝い感謝したりするため
に奉納されたものと思われます。

船進水絵馬(埼玉県幸手市)
河岸絵馬
 船の停泊場、船荷の積み下ろし場であるばかりでなく、人々
が出入りし、暮らし、富が移動し、蓄積される場が河岸です。
そこで生活の糧を得ている人々は河岸が賑わう様子を描いた
絵馬を奉納し、一層の繁栄を祈りました。これらの絵馬には川
面に浮かぶ船や道を往来する人々、川縁に並ぶ家々や問屋の
蔵の屋根などが描かれており、見る者に河岸の活気と躍動感
を伝えています。

布川河岸絵馬(茨城県利根町)
生業絵馬
 河川交通は一度に大量の物資を運ぶことを可能にしました。
このため物資の広範囲な流通が容易になり、利根川流域には
江戸への物資の供給も含めた流通経済圏が形成されました。
これを背景として醤油醸造、製茶など諸産業が誕生し、おおい
に発展しました。原材料の安定的な入手、製品の量産、消費
の拡大は生業にたずさわる人々が願うところであり、その思い
を絵馬に託しているようです。

醤油醸造の図(流山市)
水難災害絵馬
 一度に大量の物資を運ぶことを可能にする河川交通は、一方
で危険と隣り合わせの交通手段でもあったのです。風向き、水
深、流れる速さにより航行が左右される船は制御不能に陥るこ
とがありました。その結果難船や衝突事故が発生し、人的・経
済的に大きな損失をもたらしました。
  また、普段は穏やかな流れの川も大雨などによって暴れ出し、
荒れ狂った波は町や村、人々を呑み込みました。知恵を振り絞
って様々な対策を施しても、最後には神に願い祈る―今も昔も
変わらない行動様式なのでしょう。

天狗絵馬(茨城県桜川村 大杉神社)
河川工事絵馬
 流域の人々は川と共存しながらいろいろな恩恵を受けてきま
した。しかし、その代償のように、そして容赦なく川は人々を、
船を、町や村を襲います。川に生きる人々はそれに背を向ける
ことなく闘いに挑んできました。多くの人員と大量の資金を投じ
て実施される河川改修工事や築堤工事は国家の一大事業で
あり、人間の英知の限りを尽くした闘いでした。工事の完了は
人々の心に平和を呼び込み、絵馬に感謝と喜びの気持ちを託し
ています。

谷中村堤防工事図(茨城県古河市)

展示資料一覧

(法量は縦×横cm、諸般の事情により所蔵先を明記していないものもあります)

○河川交通絵馬
高瀬船図(55×121流山市)、香取神宮参詣図(104×120野田市)、三社参詣図(91×115野田市)、船進水絵馬(45.5×60.5埼玉県幸手市)、船進水絵馬(58.5×102)、船大工作業絵馬(85×157埼玉県吉川市=さいたま川の博物館蔵レプリカにて展示)、御座船の図(124×170個人)、東北線工事図(77×118栃木県小山市安房神社所有、小山市立博物館保管)
○河岸絵馬
西関宿風景図(57×75埼玉県幸手市)、布川河岸絵馬(91×181茨城県利根町)、利根川風景図(55×67我孫子市)
○生業絵馬
醤油屋店先図(70×90野田市)、醤油醸造の図(61×90流山市)、沓掛村茶製造図(152×273茨城県猿島町沓掛香取神社)、商売繁盛祈願図(67×85古河市)、油絞り図(75×153茨城県利根町)、紺屋図(100×144茨城県利根町来見寺)
○水難災害絵馬
天狗絵馬(146×199茨城県桜川村大杉神社)、難船救済図(13×19.2当館)、大杉船絵馬(58×88埼玉県幸手市)、水運安全祈願図(76.5×91茨城県利根町)、水難救助図(110×147茨城県利根町)、雨乞図(100×164茨城県利根町)、間引図(82×100茨城県利根町徳満寺)
○河川工事絵馬
水除堤普請図(90×180印西市)、杭打ちの図(63×82流山市)、権現堂堤修復絵馬(105×182埼玉県幸手市、さいたま川の博物館蔵レプリカにて展示)、利根川ケレープ工事図(88×157埼玉県北川辺町)、渡良瀬川重助裏護岸工之図(91×136埼玉県北川辺町)、築堤工事絵馬(121×180茨城県五霞町)、谷中村堤防工事図(93×150茨城県古河市)、築堤絵馬(106×136群馬県明和町三嶋神社)
○その他
河童の図(12.3×16.6柏市稲荷神社)、うなぎ絵馬(埼玉県三郷市延命院)


展示協力者

(敬称略)

安房神社 阿波本宮大杉神社 印西市教育委員会 小山市立博物館 柏市教育委員会 北川辺町教育委員会 沓掛香取神社 こうもう神社 古河歴史博物館 さいたま川の博物館 埼玉県立博物館 幸手市史編さん室 諏訪神社 千葉県立大利根博物館 長禅寺 徳満寺 利根町教育委員会 取手市教育委員会 流山市立博物館 野田市郷土博物館 三郷市教育委員会 三嶋神社 八潮市立資料館 来見寺 雷電神社 龍ヶ崎市歴史民俗資料館

生芝正渓 石井秀誉 石田年子 石塚豊明 市川久仁守 井上滋 植松剛 江森隆裕 大久根茂 大谷喜重郎 大橋清康 岡田貞之助 小川聖 小倉久男 金谷義幸 川上武雄 川村章平 北見孝斉 木村明雄 佐伯圭司 酒巻啓三 佐藤康二 下津谷秀男 瀬能泉 高橋尚夫 立澤正夫 立石尚之 知久哲夫 千代田光雄 遠山仁恵 戸賀崎一郎 友野光 鳥海一男 永倉東岳 長沢健一 沼部正昭 根本乾 針谷劔二 古谷和史 槙島義雄 松田昭治 三上勇之助 宮嶋光雄 森田貢 吉田徹雄 吉永吉治 渡辺芳男


[戻る]

Copyrightc©2005 Chiba Prefectural Sekiyado-jo Museum. All rights reserved.