イソギンチャクは動く?



 水槽にイソギンチャクというと,じっとしていて全く動かず、せいぜい餌を捕まえたときに触手を動かす程度のような気がします。しかし、イソギンチャクをとってきて水槽に入れておくと、自分のお気に入りの場所を探すためか、活発に動き回ります。その様子は、目で見てわかるほどのスピードで、意外に早い感じがします。実際に野外実験の結果でも、かなり移動することがわかっている種類もあります。とはいっても「動く」というイメージからは遠いかもしれません。では、もっと活発に動くイソギンチャクはいないのでしょうか?
 実は「泳ぐ」イソギンチャク,というのが存在します(もちろん常に泳いでいるわけではありませんが・・・)。なかでもよく知られているのは、フウセンイソギンチャクの仲間です。このイソギンチャクは、自分をおそって食べてしまうヒトデから逃れるために、体をくねらせて泳ぎ出すというのです。このイソギンチャクの入った水槽に、外敵であるヒトデの化学成分を入れるという実験を行った結果、泳ぎ出すことが確かめられています。イソギンチャクはヒトデの気配を化学物質で嗅ぎ取り、一目散に逃げ出すわけです。他に有名なものとしては、その名の通りオヨギイソギンチャク(下図)がいます。日本では,内湾のアマモ場などに生息しており、アマモの表面に無数にくっついています。このイソギンチャクは、触手をうち振って上手に泳ぎます。ちなみにこのイソギンチャクの触手の根元には,括約筋があり、イソギンチャクに触れると、括約筋をきゅっとすぼめて、簡単に触手(口盤の一部を伴うこともある)を切り離してしまいます。驚くことに,この切れ端からまた新たな個体が再生されるので、時折爆発的に増えることがあるようです。数年前にも、三浦半島の小網代湾でこのイソギンチャクが大量発生したことがありました。

オヨギイソギンチャク

オヨギイソギンチャク

 さて、話をもとにもどしましょう。他にも、その動きから、イソギンチャクの攻撃的な一面をみることがあります。さきほども述べましたが、イソギンチャクの中にはクローンをつくる種類があります。実はこのようなイソギンチャクには、自分のクローン仲間とそれ以外を見分けることができるものがいるようです。このような仲間では、他の個体が近づいてくると、徹底的にその個体を攻撃して追い払う、という行動を見せます。ウメボシイソギンチャクの仲間や、ベリルイソギンチャクの仲間では、アクロラジという器官を使って、相手を攻撃します(下図左上)。このアクロラジの中には、攻撃用の特殊な刺胞が無数に入っています(下図下)。普段は小さな膨らみなのが、攻撃時にはそこを膨らませ、相手に押しつけ、刺胞を発射させるのです。狭い水槽内でほっておくと、どちらかが死んでしまうまで攻撃は続きます。また,タテジマイソギンチャクの仲間では、これに代わるものとして、キャッチ触手があります。この触手は、攻撃時には著しく伸長して相手を攻撃します(下図右上)。この触手には、やはり通常の触手とは別の攻撃用の刺胞が入っています。条件の良い「土地」を守るのも命がけ、というわけです。

アクロラジ使った攻撃

キャッチ触手をうち振る
アクロラジを伸張させてるベリルイソギンチャク キャッチ触手をうち振るタテジマイソギンチャク

アクロラジ表面電顕像

アクロラジ断面電顕像
アクロラジの表面の電子顕微鏡写真です。矢印は刺胞の上面を指しています。 左の部分の断面を見たところです。刺胞が無数に並んでいるのがわかります。


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はじめに
イソギンチャクはどんな生きものの仲間?
イソギンチャクの体のつくり
イソギンチャクの武器「刺胞(しほう)」
イソギンチャクの繁殖
イソギンチャクと他の生きものとの関わり
イソギンチャクと人との関わり
千葉県で見られる主なイソギンチャク類