資料収集,整理保存事業
 

Ⅲ.地衣類標本の作製

地衣類を採集して標本にするまでの過程を簡単に紹介します.

もくじ

Ⅰ.様々な標本

Ⅱ.地衣類標本庫の運営

Ⅲ.地衣類標本の作製

 

 

●1.採集

 

★ルーペで観察.採集する前に,よく観察し,採集する個体を選びます.

★葉状地衣などをはがす.木の幹や枝などの基物からはがせるものは,ナイフやヘラを使って丁寧にはがします.はがせないものは,基物ごと切り取ります.
★岩ごと割る.岩に生えていてはがせないものは,ハンマーとタガネを使って,基物の岩ごと割って採取します.
★枝ごと切る.細い枝に,はがせない地衣類がついている場合は,その枝の部分を剪定ばさみで切り取ります.
★傷まないように持ち帰る.資料は1点ごとに紙袋に入れます.岩ごと採ったものは,岩同士がぶつかり合って地衣類が壊れてしまわないように,それぞれキッチンペーパーで包んでから紙袋に入れます.
★標本データを記録.地名,緯度・経度,着生基物,植生・地形などを標本番号ごとに野帳に記録します.
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ルーペでよく観察

葉状地衣を樹皮からはがす

岩ごとタガネで割る

 
 

●2.標本づくり

 

◆◆押し葉標本づくり

立体的な地衣類は,そのまま標本パケットに入れると壊れやすいだけでなく,場所を取るため,押し葉標本にします.
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きれいな水に,柔らかくなるまで浸ける.早いものなら数秒でOK

新聞紙の上で,ピンセットを使いごみを取る

1ページ大に切った新聞紙にきれいに並べ,半分に折る.これを吸い取り紙用の新聞紙(朝刊1ないし2日分)の上に重ねる

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吸い取り紙用の新聞紙を上に載せる.吸い取り紙,標本を挟んだ新聞紙,吸い取り紙,の順に繰り返し重ねる

上に板を置く.板が軽い場合は,「原色日本地衣植物図鑑」程度までの重しを載せる

吸い取り紙は作業日の最後に1回交換,翌日には地衣類が乾燥していることが多い.乾燥していなければ,吸い取り紙を替える

 

◆◆台紙貼り

岩ごと採った,あるいは樹皮ごと採った資料を台紙(※)に貼ります.
接着剤には事務用の合成糊(アラビックヤマトなど)を使用します.
※台紙ははがきの2倍以上は厚いものが適当です.白い台紙は,実体顕微鏡下で観察するときなど,見にくくなるので避けます.下の写真にあるような多少とも着色したものが最適です.もちろん中性紙です.
rock
bark
leaves

基物の岩ごと台紙に貼りつけた例

基物の樹皮ごと台紙に貼りつけた例

 

基物の葉ごと台紙に貼りつけ,その上からパラフィン紙を貼り付けた例

 

◆◆ラベル・パケットの準備

★採集時に記録したデータをもとに,ラベルを作ります.Excelにデータを入力し,これをMS Wordに差し込み印刷して作っています(2018年時点).
★事前に折ってあるパケットに,ラベルを木工用ボンド(少しだけぬるま湯で希釈)で貼ります.
★押し葉や台紙貼りをした資料を,パケットに移し替えて標本は出来上がりです.
 
 

●3.標本の同定,研究

★この過程は,上で説明した標本作製が終わってからする場合もあるし,先行したり,並行して行うことがあります.

★同定が完了したら,学名や同定者などをデータベースに入力します.

 >ラベル出力前なら,同定結果がラベルに反映されます.(下図の左①)

 >ラベル出力後なら,ラベルに水性の顔料インクのペンで書き込みます.(下図の中央②)

★いったん整理した標本を,必要に応じて再同定,再研究することがあります.その結果がラベルの情報と異なっていた場合には,データベースとラベルに反映することがあります.また,学名が変更された場合には,元の学名を残したまま,新しい学名を記入することがあります.(下図の右③)
先に同定
後に同定
後に修正

① ラベルを作る前に同定できたので,最初からラベルに学名(矢印)を出力

② ラベルを貼った後に同定し,学名(矢印)をラベルに書き込んだ

③ 学名が変更されたため,上の余白に新しい学名(矢印)を鉛筆で記入

 

●4.その後の整理

★同定し,その情報をデータベースとラベルに反映した標本は,標本庫の配置計画に従って,所定の場所に整理します.