3.地衣類と化学分類

 

3-1.呈色反応 Color test (spot test)

3-1-1.皮層と髄層

 「原色日本地衣植物図鑑」(文献1)の p. 50 掲載のアンチゴケの項をみると,「皮層K+黄色,髄層C-,KC-,K-,P-」と記されています.p. 51 のセスジアンチゴケでは「皮層K+黄色,髄層K-,C-,KC+紅色,P-」,p. 83~84のウメノキゴケでは「皮層はK+黄色,髄はK-,C+赤,P-」です.つまり葉状地衣では,皮層(上皮層)にはKテストのみを,髄層にはK・C・KC・Pの4つのテストを行い,その反応を調べることが基本となっているのです.

 上皮層で K反応だけを調べるのは,Kテストで黄色に反応する(K+黄色)アトラノリンが,上皮層にあるかないかを判定するのが主な目的です.ムカデゴケ科などでは,アトラノリンの有無が,大きなグループ分けに役立つ場合があります.

 このほかに,上皮層に特異的に生産される地衣成分には,ウスニン酸があります.黄色みを帯びた物質ですが,確実に判定するには,KCテストを実施し,KC+黄色の反応を確認します.

 他の地衣成分のほとんどは,髄層にあります.ですから,その判定のために,4種類のテストが必要なのです.

葉状地衣の断面を見ると
extraction
上皮層と髄層では別の地衣成分を含むので,それぞれ別のテストをします.

 上皮層はむき出しになっているので,地衣体の表面に直接検査することができます.しかし,髄層の検査にあたっては,覆っている皮層をはがして,髄層をむき出しにする必要があります.これには,地衣体の,少しだけ,しかも広く出っ張っている部分を見つけて,剃刀で表面の皮層の部分をそぎ落とします.

ウメノキゴケの皮層をむき出しにする  
皮層むき出しに   皮層むき出しに   皮層むき出しに  
少し出っ張った場所を選びます   剃刀で表面の皮層をそぎ取ると   白い髄層がむき出しになります  
 髄層の呈色反応は,このようにしてむき出しにした髄層に対して実施します.試薬を多量に付けると,髄層だけでなく皮層にもかかってしまい,髄層のみの反応を判定できなくなる可能性がありますので,注意が必要です.
皮層むき出しに  

(〇)左の赤線で囲ったように,白い髄層の範囲内に試薬が収まるようにするのが理想的です.

 

(×)右の赤線で囲った箇所では,白い髄層から試薬が皮層にまではみ出て,髄層の反応の判定が難しくなります.試薬が多すぎです.

 

検査部位に付く試薬の量を減らすために,スポイトの先をできるだけ細くします.しかも,1滴を垂らすのでは多すぎるため,1滴が落ちないようにしたまま(半滴の状態),試薬が検査部位につけます.

 

とは言え,それでも(×)のように髄層からはみ出てしまうことがありますが,実体顕微鏡下で観察しながら試験をすれば,髄層の反応と皮層の反応を判別できます.

 

【文献1】吉村庸.1974.原色日本地衣植物図鑑.349 pp., 48 pls. 保育社,大阪市.