イソギンチャクも他の動物と同じく、ちゃんと有性生殖を行います。多くのものは雌雄異体で、それぞれ精子と卵を隔膜の中膠の中で発達させます。ただし、中には雌雄同体の種類もあります。これまで分かっているものでは、春から夏にかけて生殖腺を成熟させて繁殖する種類が多いようです。受精は体外または体内で行われ、受精した卵はプラヌラ幼生になります。ちょうどこの時期、隔膜は八放サンゴ類と同じ数の8枚になります。この時期は特別にエドワルドジア期と呼ばれます。その後、新たな隔膜が6対の隔膜対をなすように形成され、それぞれの隔膜の間から触手が生えて小さなイソギンチャクになります。
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イソギンチャクの生殖腺 上から♂、♀、雌雄同体の生殖腺を示します。 |
イソギンチャクのプラヌラ幼生。すでに内部に隔膜ができはじめているのがわかります。 | 断面をみてみると、八枚の隔膜に加え、新たに4つの隔膜(三角印)ができつつあるのがわかります。 |
この受精から幼生、小さなイソギンチャクまでの過程は、種類によって実に様々です。左の図のAタイプでは、卵(未受精もしくは受精卵)が放出され、発生を開始し、浮遊性のプラヌラ幼生を生じ、基盤に着底してイソギンチャクとなります。Bタイプでは、体内での受精後、プラヌラ幼生になるまで、体内で保育されます。ほとんどのイソギンチャクは、このどちらかのタイプになりますが、中にはCタイプ(ヤドリイソギンチャクの仲間)のように、受精卵がクラゲに付着して発生し、プラヌラ幼生は浮遊しない種類もあります。また、Dタイプのように、受精卵をゼリー状の物質でつつみ,その中でプラヌラ幼生が発達するイソギンチャクもあります。さらに,子育てをするイソギンチャクも知られています。コモチイソギンチャクでは、受精卵を体の外側(専用のくぼみがある)にくっつけて、ある程度大きなイソギンチャクになるまでそこで育てます。また、北米大西洋岸に生息するウメボシイソギンチャク科の1種では、子供は親の体の中(胃腔)で、完全にイソギンチャクの形にまでなる育ちます。
ヤドリイソギンチャク
このような方法は、それぞれほどほどに成功しているために、受け継がれている性質ですが、一生にかかる繁殖のためのコスト(少なくとも2個体を次世代に残せれば、個体数は減少しない)は、それほど変わりないと考えられています。
イソギンチャクには、有性生殖以外に、無性生殖を行う種類も少なくありません。この無性生殖にも何通りもの方法があります。もっとも一般的なのが、縦分裂と呼ばれる方法です。縦分裂では、図11のように、体の付着部(足盤)が2方向に向かって伸長し、その引っ張りによって、徐々に上の方まで体が裂けていき、最後には口の部分がちぎれて2個体になります。新たな組織の再生より、分裂のスピードの方が早く、まさに「ちぎれる」という表現がぴったりで、結構大胆な印象を受けます。
他にも、体の一部からもう一個体が生えてくる「出芽」、足盤の一部がちぎれて、そのちぎれかすから個体が生じる「足盤裂片」、体が横に分裂する(クラゲのストロビレーションを連想する)「横分裂」、おおざっぱにいうと、体内の未分化細胞を寄せ集めて新しい個体をつくるイメージの「体性胚発生」などが、イソギンチャクの無性生殖として知られています。体の構造が単純だからでしょうか、実に信じられないような増えかたをするものです。
無性生殖を行う種類は、いわゆるクローン集団をつくります。北米の太平洋岸では、タテジマイソギンチャクが海岸沿いに数キロメートルにわたって、全てクローン集団だった、という驚くべき報告もあります。
このような無性生殖は、全ての種類で見られるわけではなく、また、特定のグループにだけ見られるものでもありません。近縁の種類同士でも無性生殖を行ったり行わなかったりしますし、また逆に、縁遠い種類同士が同じ無性生殖の方法を行っていることもあります。「無性生殖」がどのように進化してきたのか?ということについては、現在研究が進んでいます。近い将来「分裂遺伝子」のようなものが発見されるかもしれません。
実は、イソギンチャクの寿命については、まだ確かなことはわかっていません。なにしろ、年齢を調べるための形質(木の年輪や魚の耳石など)が全然ないのです。ただし、イギリスのある博物館で飼育していたウメボシイソギンチャクが、少なくとも70年以上生きていた、という記録があり、一般にイソギンチャクは長寿であると考えられています。中には数百年!生きる、という見積もりもあるほどです。
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