トピックス展「五百沢智也氏が描いた房総の風景」

令和4年度トピックス展

「五百沢(いおざわ)智也氏が描いた房総の風景」

 

   【会 期】 令和4年4月29日(金・祝)~6月19日(日)
   【場 所】 千葉県立中央博物館 第二企画展示室

 

 本展示では、鳥瞰図作家・氷河地形研究者である五百沢智也氏(1933-2013)が、独自の視点で描いた鳥瞰図やスケッチ画を、その土地の成り立ちも含めて紹介します。
 房総各地の山や海岸、里山の風景など、千葉県民にとって身近でなじみのある地域を描いた作品が多く、親しみやすいのではないかと思います。これらの魅力を、若い世代も含め、より多くの方々にお伝えできればと思っています。

 

〈展示構成〉

五百沢智也氏とその作品

 五百沢智也氏(1933~2013)が、どのような場所で、どのような活動をされてきたのか、年譜と写真で紹介します。

 

房総の風景:

 長南町の野見金山から西の方向を描いた山の展望図「野見金山の眺望」、図に描かれている富士山や南アルプスのダイナミックな山岳鳥瞰図(拡大印刷図、原画)などを展示します。

 

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展示室のようす

 

〈五百沢智也氏年譜〉

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自宅で鳥瞰図を描く五百沢氏
(写真提供:公益財団法人山形県生涯学習文化財団 山形県郷土館文翔館)

 1933年 山形市に生まれる、幼少の頃より山形県内や周辺の山登りに親しむ。
 1952年  東京教育大学理学部地学科地理学専攻入学 大学在学中、日本各地の山と岩場に登る。
 1957年 建設省地理調査所(1960年に国土地理院と改称)に勤務、5万分の1地形図の測量・作成
     に携わる。
 1970年 国土地理院退職、以後フリーとなり、調査・執筆活動を行う。第1回 ヒマラヤ行、航空斜
     め写真の撮影を行う 。
 1979年  「岳人」(東京新聞出版局)に長期間掲載された「氷の山・火の山」シリーズをまとめ、
       「鳥瞰図譜 日本アルプス」(講談社)刊行。
 1983年 「日本アルプスおよびヒマラヤ山脈における氷河地形および地誌の研究」により、第19
         回秩父宮記念学術賞を受賞。
 1991年  千葉県一宮町に移る。
 2007年  千葉県立中央博物館で春の展示「山の科学画」開催、「山と氷河の図譜」(ナカニシヤ
      出版)刊行、その前後2004年~2009年の間、安曇村資料館(現松本市安曇資料館)、
      立山カルデラ砂防博物館、山形大学附属博物館、山形県文翔館、産総研地質標本館など
      が、それぞれ独自の視点で展示会を行った。
 2013年12月 逝去

 

主な著書

 ヒマラヤ・トレッキング(1976年 山と渓谷社)
 鳥瞰図譜 日本アルプス(1979年 講談社)
 山と氷河の図譜(2007年 ナカニシヤ出版)など

 

〈主な展示品解説〉

房総の風景:

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「犬吠埼」
未発表(1998年10月10日描く)

 銚子市の東方、太平洋に突き出た犬吠埼を南から描いた作品です。
 灯台がのる平坦な地形は、約6万年前頃陸化した海成段丘面ですが、打ち寄せる荒波で斜面が不安定化し、地すべりが発生しています。また灯台の下には、白亜紀の地層が観察できる露岩の崖が見られます。

 

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「富山の調査記録」(未発表)

 この図は、五百沢氏が南房総市岩井の富山(とみさん)を訪れた際に、フィールドノートの挿絵として描いた鳥瞰図やスケッチ画です。
 標高約350メートルの富山は、「南総里見八犬伝」の舞台ともなった山で、どこから遠望してもすぐにわかる2つのピークが特徴的です。
 一見ラフな図のようにも見えますが、鳥瞰図は伝統的なブロックダイヤグラム式で、国土地理院の2.5万分の1地形図を基に描かれています。山の尾根筋や谷線、雨が降った時に水が流れる最大傾斜方向を示す落水線(らくすいせん)などがひかれています。
 現地観察により細部を仕上げており、富山とその山麓に広がる岩井の小平野の地形、そこに住む人々の日常が表現されています。立体的な地図としても楽しめる景観図になっています。

 

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「蛇喰(ざばみ)からの伊予ヶ岳 337メートル」
未発表(2005年10月21日描く)

 房総の山のうち、岩峰で知られる南房総市の伊予ヶ岳を南側から見た図です。県内では唯一の「岳」のつく山名です。その岩峰の頂上で、一部が崖面にそった弱線で割れて開き、ずり落ち始めている様子が描かれています。

 

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「小湊鉄道 たかたき駅」          「小湊鉄道 つきざき駅」

 内房の五井から小湊の誕生寺まで参詣客をあてにして作られた小湊鉄道は、養老川沿いに丘陵を縫って、半島奥地まで走る。古いアンティークな鉄道の雰囲気をふんだんに残している。
                                「智也のアルバム 四」より

 

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「智也の絵 四」(1985年~ 旅のスケッチ)

 春色に染まる小湊鉄道の駅や、新緑の久留里城下を描いたスケッチ画を解説している手作りのアルバムです。
 五百沢氏は、若い頃から描いてきたスケッチ画や鳥瞰図を縮小コピーし、年代順に並べて5冊のアルバム「智也の絵」を作成しています。この中には、それぞれの作品を描いたときのエピソードや、周辺の地図などが書き添えられています。
 展示室では、これらのアルバムに収められたスケッチ画を、スライドショーで見ることができます。

 

房総の山から見える風景:

 房総半島は関東平野の東端にあるため、周辺の山々はなかなか見えません。しかし展望地点を選べば、富士山を初め、南アルプス、関東山地、筑波山や赤城山、日光の山々などの名山を眺めることができます。
 五百沢氏が住んでおられた一宮町に程近い、長南町の野見金(のみがね)山(標高180メートル)もそのひとつです。

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「野見金山の眺望」(印刷図)
1995年12月五百沢智也作画、2001年好音堂より刊行

 これは「山岳展望図」というジャンルの景観図です。東京都内から西方を望む図などがよく見られますが、千葉県より西方を望む図は、これが唯一のものかもしれません。
 図の左手から、箱根、富士山、南アルプス、丹沢、大菩薩、奥秩父、奥武蔵、西上州の山並みの大展望が示されています。千葉から南アルプスの赤石岳や鳳凰山も見えるというのは驚きです。

 

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野見金山とその展望地点から見える山々の位置関係(カシミールを基に吉村光敏作成)

 この図を見ると、富士山は野見金山のほぼ西の方向にあることがわかります。
 展示室では、富士山や南アルプス赤石岳をいろいろな方向から描いた山岳鳥瞰図も展示しています。

 

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五百沢氏の作品には、千葉県や関東平野を描いた広域の図もあります。
「千葉県地形鳥瞰図」(1995年五百沢智也作画 当館蔵)

 ふだんとは逆さまの方向から千葉県を見る図で、野田市関宿上空から、九十九里浜方向を見るように描かれています。
 「地球の上にある千葉県」を表現するため、地球の丸みを少々誇張した太平洋の海面を図の上方に設定しています。

 

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第二企画展示室入口付近

 左側の大きな図「鳥の眼から見た関東地方」は、関東地方を俯瞰した地図の上に、地形分類図を重ねたものです(画像編集:吉村光敏)(原画:関東地方地貌図(ちぼうず) 制作:五百沢智也)。

 

〈関連行事〉

 〇ミュージアム・トーク(展示解説)
   5月3日(火・祝)、6月12日(日)
  いずれも11:00~11:30.定員 10 名.先着当日申込.受付場所2F案内所.入場料必要

 

〈助成金等〉

 この展示は、文部省科学研究費補助金 基盤研究費C「五百沢式鳥瞰図と各種主題図の融合による地理景観教材の開発と博物館における活用(研究代表者:八木令子)」の助成を受けました。

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