地衣類の形態について更に詳しく解説します.
ここでは,「3.痂状地衣の体の造り」を紹介します.右のもくじから,各項目に移動できます.
◆多くの痂状地衣は,岩や樹皮といった基物上の表面を覆うことから,基物上生(きぶつじょうせい,episubstratal)です.しかし中には,地衣体が基物の中に入り込んでしまう種類があって,これを基物内生(きぶつないせい,endosubstratal)といいます.
◆基物が岩の場合には,基物上生は岩上生(がんじょうせい,epilithic)といい,基物内生は岩内生(がんないせい,endolithic)となります.
◆樹皮上の基物上生は樹皮上生(じゅひじょうせい,epiphloeodal),基物内生は樹皮内生(じゅひないせい,endophloeodal)です.
◆このような区分けが地衣類の勉強をするうえでいきなり必要になることはないのですが,痂状地衣の形態を理解するうえで重要な情報です.次の項目からは,主に基物上生の痂状地衣を中心に解説することになります.
①プラコディオイド(placodioid)
地衣体は周辺部で,裂片化します(矢印).つまり周辺だけ葉状のようになります.例:キクバチャシブゴケ,アツミダイダイゴケCaloplaca cinnabarina
②綿毛状(byssoid)
地衣体全体が綿のようです.例:ワタゴケCrocynia gossypina
③粉状(leprose)
地衣体全体が粉芽でできています.つまり,粉のようです.例:レプラゴケLepraria cupressicola,コガネゴケChrysothrix candelaris
一般的な痂状地衣(上の「特殊な形状の痂状地衣」や,基物内生を除いて)では,種類によっては地衣体が割れていたりすることがよくあり,その割れ方などが種類の特徴になります.
①区画化する(areolate)
周辺部まで含めて,地衣体の全体が割れています.縁部では,最初は小円盤状で互いに離れていて,中央部では接して,多角形になる,という場合があります.
②半ば区画化する(rimose)
地衣体の中央部では,ほぼ完全に多角形に割れ,あるいは不完全に割れていますが,周辺部では割れていません.縁部では,小円盤状で互いに離れているということはありません.これに該当する種では,区画化の度合いは環境によって大きく異なり,地衣体がほとんど割れないものから,ほぼ全体が区画化するように見える場合まで,大きく変異することがしばしばあります.
③連続する(continuous)
地衣体全体が連続し,割れません.種や環境条件によって割れる程度は変わり,割れ目が多くなってくると,「半ば区画化する」ことになります.
◆区画の形状
区画の形は,多角形のことが多いですが,種によっては円盤状,半球形などのこともあります.
◆プロタルス(prothallus)
痂状の地衣体を上から見たとき,どこの部分も菌糸と共生藻からできています.しかし,このような地衣体の縁を,菌糸だけからなる部分が取り囲むことがあります.これがプロタルスです.種によってその形状は異なり,繊維状だったり,フィルム状だったりします.
◆ヒポタルス(下菌糸,hypothallus)
プロタルスのように菌糸だけからなる層を,一般の地衣体の下側に連続して生じるものがあります.これをヒポタルスあるいは下菌糸といいます.
右のフタゴチズゴケの,黄色い部分は一般の地衣体ですが,その下の黒い部分が,狭い意味でのヒポタルスです.区画の間や周りの黒い部分も含めてヒポタルスということもありますが,厳密に区別すると,プロタルスということになります.