地衣類の形態について更に詳しく解説します.
ここでは,「A.子器の造り」を紹介します.右のもくじから,各項目に移動できます.
そもそも「子器」(しき)という語は,地衣類以外には使いません.地衣類のほとんどが子嚢菌類ですが,その胞子(子嚢胞子)をつくる器官は,地衣以外の菌では子嚢果といいます.地衣類の子嚢果が,子器なのです.
大型地衣(葉状地衣と樹状地衣)は,ほとんどは地衣体の形態だけで同定することが可能です.一方,痂状地衣では,子器がないと,どの仲間なのか全く見当がつかない場合が多いと考えましょう.実体顕微鏡下で観察し,切片を作り生物顕微鏡で観察することも大事になります.
子嚢を含む子嚢層が丸く水平に広がり,子器盤となって現れる
子嚢を含む子嚢層は子器壁(この写真では黒色)で取り囲まれ,孔口で外に通じる
子嚢層(子器盤)が主に2方向にのみ成長し線状となる.このモジゴケ属では,子器盤は黒いラビアに挟まれる
3つのタイプの子器の断面の模式図は下のようになります
子器の縁部に共生藻が分布するのか,縁部が暗化するのかなどにより,裸子器はレカノラ型・レキデア型・ビアトラ型の3タイプが認められています.
ナミチャシブゴケモドキ
Lecanora imshaugii
皿状の子器の縁の部分は,地衣体と似たような色をしており,地衣体と同様に共生藻が分布している.
カシゴケ
Cresponea proximata
子器の縁の部分は,地衣体とは違って黒っぽく,共生藻は分布しない.
ダイダイサラゴケ
Coenogonium luteum
レキデアと同様に子器の縁には共生藻は分布しないが,淡い色をしている.
3つのタイプの
子器の縦断面の
模式図
①レカノラ型(縦断面)
子器の縦断面を見ると,子嚢が配列する子嚢層の表面のところが,褐色で,これが子器盤の表面の色となって現れます.子器の縁の部分は,断面では果托(かたく)と呼ばれます.ここに,地衣体と同じように共生藻が分布しています.
このタイプの子器を作る代表が,チャシブゴケ属で,学名はLecanora(レカノラ)です.ウメノキゴケ科の葉状地衣も,このタイプの子器を作ります.
②レキデア型(縦断面)
子器の縁の部分は,断面でも色が黒っぽくて,共生藻は分布しません.
レカノラ型とは違って,縁の部分は果殻(かかく)と呼ばれます.
このタイプの子器を作る代表が,Lecidea(レキデア)という仲間だったのですが,この仲間は研究が進むにつれて,多くの属に分けられてしまいました.この写真のカシゴケは,全く別の科(リトマスゴケ科)に属します.
被子器は表面から見ても区別は難しい.切片を作り,顕微鏡で詳しく見ないと,その特徴をとらえることはできません.
● 子嚢の周りに,側糸(そくし.ほとんど枝分かれしない)があります.
例)マルゴケ属Porina,マンジュウゴケ属Strigula,サネゴケ属Pyrenulaなど
● 子嚢の周りに,側糸状体(そくしじょうたい.網目状になる)があります.
例)ニセゴマゴケ属Anisomeridium,ウメボシゴケ属Trypetheliopsisなど
● 子嚢の周りには,側糸などの菌糸はありません.孔口の近くに,周糸(しゅうし)があります.
例)アナイボゴケ属Verrucariaなどのアナイボゴケ科(アナイボゴケ目)
子器の横断切片
●細長く伸びた子器盤の両側は黒い唇のようなラビアで挟まれています(左図).黄色の線の向きで薄く切って,子器の横断切片を顕微鏡で観察すると(右図),子嚢層が黒い果殻で挟まれているのが分かります.子嚢層の表面は子器盤,果殻の表面はラビアにあたります.この断面だけ見ると,レキデア型の裸子器に似ています.