地衣類の形態について更に詳しく解説します.

ここでは,「B.粉子器の造り」を紹介します.右のもくじから,各項目に移動できます.

 
もくじ  

1.葉状地衣の体の造り

A.子器の造り

2.樹状地衣の体の造り

B.粉子器等の造り

3.痂状地衣の体の造り

 
 
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B.粉子器等の造り

「粉子器」(ふんしき)は,雄性生殖器官と考えられています.そこで生産される粉子は,運動性がないので,不動精子にあたります.

粉子器の代わりに,ハイフォフォアあるいはキャンピリディアをつける地衣類もあります.いずれも粉子器と同じような器官と考えられ,熱帯性の地衣類に見られることがあります.近年まであまり知られていませんでしたが,日本にもこれらをつける地衣類が最近になって見つかりましたので紹介します.

1.粉子器(pycnidia)

地衣類のほとんどの種が粉子器をつけますが,粉子器はとても小さく,しかも地衣体に埋もれていることが多く,目立ちません.また,同じ科や属内で違いがほとんどないため,分類や同定の場面で注目をされにくく,観察される機会はどうしても少なくなってしまいます.

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オニノヒゲBryoria bicolorの粉子器(矢印) ホネキノリAlectoria lataの粉子器(矢印) ホネキノリAlectoria lataの粉子器の断面(ラクトフェノールコットンブルー標品)

ハリガネキノリ属Bryoriaをはじめとするウメノキゴケ科樹状地衣の粉子器に形態について詳しく調べたところ,種間はもちろん,属間でもほとんど違いが認められませんでした.(文献1)

 

(文献1)Harada H. & Wang L.-S. 2008./ Taxonomic study on Bryoria (lichenized Ascomycota, Parmeliaceae) of East Asia (4). External morphology and anatomy of pycnidia./ Lichenology 7(2): 159-168.

 

2.ハイフォフォア(hyphophores)

右の写真のように,主にトゲ状の突起で,その片側にダイアハイフェ(diahyphae)と呼ばれる,胞子のようなものをつけます.

これをつけるのは,ヒゲゴケ科Gomphillaceaeの地衣類です.常緑広葉樹など生きた葉っぱの上に生え,生葉上地衣類に種類が多く知られています.熱帯域に多いのですが,千葉県などでも知られ,しかも樹皮着生や岩上生の種もあるようです.

 

千葉県で見つかった樹皮着生性のヒゲゴケ科(ギアリデオプシス チバエンシス Gyalideopsis chibaensis)(文献2)のハイフォフォア

 

(文献2)Harada H. 2008./ Gyalideopsis chibaensis (lichenized Ascomycota, Gomphillaceae), a new gyalectoid lichen from central Japan./ Lichenology 7(1): 25-29.

 

hyphophore

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3.キャンピリディア(campylidia)

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キャンピリディアは,地衣体に埋もれず,むき出しです.構造的には袋状ですが,膨れずに,ひしゃげて,さじのような形をしています.

熱帯に多い,葉の上に生える生葉上地衣には,キャンピリディアをつける種類が多数知られています.ハシゴケ科Ectolechiaceaeが代表です.

 

千葉県で見つかった,樹皮着生性のハシゴケ科(プセウドカロパディア チバエンシスPseudocalopadia chbaensis )(文献3).この標本はツツジの小枝についていたものです.

 

この種では,窪んだ側を必ず上に向けています.その,さじのような先端付近には,(右写真)幅の狭い隙間が開いています.キャンピリディアの中でできた粉子は,ここから出てくることになります.

 

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キャンピリディアを斜め上から見たところ.

キャンピリディアの上の面.矢印のところに細長い孔口が開いている.
(文献3)Harada H. & Sakata A. 2017./ Pseudocalopadia chibaensis (lichenized Ascomycota, Pilocarpaceae), a new corticolous species of campylidiate lichen from Japan./ Lichenology 16(2): 103–115.