・・・< その2 >・・・

 
もくじ
その1.菌類の仲間であること/地衣類という共生現象
その2.ある地衣類の一日/特殊能力 体の表面から水分を吸収/特殊能力 乾燥しても死なない
その3.葉状地衣・痂状地衣は丸くなる/ゆっくりと成長する
その4.生活史(子嚢胞子による殖え方)
その5.生活史(栄養繁殖)
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ある地衣類の一日

着生地衣類

木の幹にナミガタウメノキゴケが生えています.天気の良い日中だと,地衣体は白っぽく,カサカサ,パリパリで,「本当に生きているの?」と感じることでしょう.

 

生きてはいますが,活発に活動しているわけではなく,眠っています.

このナミガタウメノキゴケは,きっと次のような暮らしをしているのです.

着生地衣類

夜,気温が下がっていくにつれ湿度が高くなり,朝になると草の上や石の上が朝露で湿っています.ナミガタウメノキゴケも湿り気を帯びています.すると,共生藻は日光を浴びて,光合成を始めます.

 

と同時に,日光は体を乾燥させていきます.二三時間もすると完全にカラカラになってしまうことでしょう.すると,乾燥と日光に耐える態勢を整えて,眠りにつきます.

十分な水分を得られない時は,目覚めることなく何日も眠り続けることになります.

 

地衣類ならではの特殊な能力が,こんな生活を可能にすると考えられています.

 

地衣類の特殊能力 体の表面から水分を吸収

 

乾燥したハナゴケを水に浸けると,1秒もしないうちに柔らかくなります.これは,体の大部分を形作る菌糸の細胞壁の性質によるものです.根から水分を吸収する植物と違って,体の表面から水分を吸収し,しかも,それがとても速いのです.細胞壁の中に多量に含まれる,リケナンあるいはイソリケナンと呼ばれるペプチドグルカン(アミノ酸とグルコースがつながった高分子化合物)の性質によるものです.

 

この細胞壁は,湿度が高いとき,空気中の水分をよく吸収します.種類にもよりますが,湿度が70%程度からだんだんと柔らかくなってくるものもあります.砂漠に生育する地衣類では,液体としての水がなくても,湿度が92から98 %のときに,共生藻が光合成をすることができたというデータもあります(文献1, p. 52).

着生地衣類

(文献1)Hale M.E. Jr. 1983./ The biology of lichens, 3rd ed. 190 pp./ Edward Arnold, London.

 

地衣類の特殊能力 乾燥しても死なない

1.植物の葉の細胞では

 

着生地衣類 植物の葉に日光が当たると,葉緑体が活性化し,そのエネルギーを糖の生産に使っていきます.しかし,乾燥状態では糖は生産されず,過剰なエネルギーが行き場を失い,細胞を破壊し,葉は枯れてしまいます.(文献2)
   
2.地衣類の共生藻では  
着生地衣類 一方,地衣類の乾燥時(休眠中),共生藻の葉緑体は,日光から受けたエネルギーを熱エネルギーに変換して放熱し,細胞を破壊せずにすむようなメカニズムがあります.これによって,乾燥して休眠状態で日光を浴びても大丈夫なのです.また,翌朝,湿った時に速やかに光合成を再開できるのも,特技です.(文献2)
 

(文献2)原田浩・小杉真貴子・木下靖浩. 2012/ 6.7 地衣類./ 日本進化学会(編),進化学事典, pp. 189–192. 共立出版,東京.