・・・< その5 >・・・

 
もくじ
その1.菌類の仲間であること/地衣類という共生現象
その2.ある地衣類の一日/特殊能力 体の表面から水分を吸収/特殊能力 乾燥しても死なない
その3.葉状地衣・痂状地衣は丸くなる/ゆっくりと成長する
その4.生活史(子嚢胞子による殖え方)
その5.生活史(栄養繁殖)
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生活史(栄養繁殖)

粉芽(ふんが)による殖え方

  (●)粉芽について
life cycle  

一部の種では,子嚢胞子による殖え方以外に,特別な殖え方を獲得したものがあります.その殖え方とは,粉芽です.

粉芽は,共生藻の細胞の塊に菌糸が絡みついた,とても小さな粒で,地衣体から容易に離れるために,繁殖に役立っています.最初から共生藻が入っているので,とても効率の良い殖え方といえます.

(左図のモデルはムカデコゴケ Physciella melanchra)

 

パスチュールが壊れる

  (●)パスチュールについて
pustule

地衣体の表面が泡のように膨れるパスチュールは,よく壊れることがあります.断片は落下し,粉芽と同じように栄養繁殖の手段となります.

ウメノキゴケ科の葉状地衣では,コナヒメウメノキゴケ(左図),ヒカゲウチキウメノキゴケ,ハヤチネウメノキゴケなどがパスチュールを作る代表的な種類です.痂状地衣ではアナゴケがパスチュールを作ります.

 

シジディアで殖える

shizidia

地衣体の表面がはがれやすい構造になっていて,これで殖えることがあります.この構造はシジディア(schizidia)といいます.

ヒロハセンニンゴケ(左図)やセンニンゴケなどでは円盤状の典型的なものが見られます.また,クズレマツゲゴケでは,地衣体表面が多角形に割れてシジディアができます.

 

粉芽のような殖え方いろいろ

cladonia

ヒメレンゲゴケの子柄の表面には,顆粒や細かな鱗片がついています.これが容易に脱落して,粉芽と同じように栄養繁殖に関与していそうです.ハナゴケの仲間は乾くととてももろいので,その状態で物理的な衝撃を受けると(例えば,人や獣に踏まれたり,蹴飛ばされたりすると),簡単に粉々になって,その破片が粉芽と同じような働きをして,新たな個体へと成長することができるようです.

 
usnea longissima

サルオガセ属は,根元があって,木の幹や枝にしっかりと付着してます.しかし亜高山帯のナガサルオガセは,基物にしっかりと付着することなく,枝に絡まっていることが多いようです.

先端だけが伸びるのではなく,全体がまんべんなく伸びるので(文献1),ちぎれて他の枝に絡みつき,そこでまた長くなることができるのです.そういう生活をしている個体がとても多いのでしょう.

(文献1)Ino Y., Fujii M., Nakano Y. & Yoshida M. 2003./ Mode of elongation growth of Usnea longissima Ach. on Mt. Kushigata, central Japan./ Lichenology 2(1): 1-4.