子器にできた子嚢の中で,子嚢胞子が成熟します.子嚢から飛び出した子嚢胞子は,空中を漂い,やがてどこかに付着あるいは落下します.そこで共生藻となるべき藻類と出会うことができれば,地衣化が起こります.それはやがて地衣体へと成長し,子器をつけることでしょう.
(左図のモデルはムカデコゴケ Physciella melanchra)
これが基本的な生活史と考えられます.
しかし,じつはこれは,かなりの部分をはしょっています.
子器が,そして子嚢胞子ができるまでを,下に示します.
(モデルはチャシブゴケ属 Lecanora)
地衣体(1)には,造嚢器(3)や粉子器(2)ができます.造嚢器(3)は,卵にあたるもので,オス・メスで言えば,メスに当たります.これに対して,2の粉子器にできる粉子がオス,精子にあたると考えられています.
造嚢器から伸びる受精毛に粉子がくっつき(3~4,プラスモガミー),核が造嚢器へと移動します(4~5).2核の造嚢器から,同じように2核の造嚢糸が伸びるとともに,だんだんと,子器の形ができはじめます(6~).
子器が十分に発達した状態で(7),造嚢糸の先端に子嚢ができ(8),この中で2つの核が1つになり(9~10,カリオガミー),次いで減数分裂が起こり(10~11),更に分裂し(~12),それぞれの核の周りに細胞壁ができ(13),子嚢胞子へと発達していきます(~14).
子嚢が成熟すると,子嚢の先端が裂け,子嚢胞子が飛び出していきます(15,16).
子嚢胞子は空中を漂い(16)付着した場所に,共生藻となるべき緑藻(17)があると,地衣化が起こります(18).これが地衣体の形になって(地衣体分化),成長していきます.
この図は地衣類の生活史を紹介するため原田が作図したもの(文献1,2)を,原田が一部改変して作成しました.
(文献1)原田浩. 1998./ 地衣類の用語解説 その4―地衣類の生殖―./ 日本植物分類学会ニ ュースレター(92): 9-11.
(文献2)中村俊彦・古木達郎・原田浩. 2002./ 校庭のコケ. 192 pp./ 全国農村教育協会,東京.