・・・< その3 >・・・

 
もくじ
その1.菌類の仲間であること/地衣類という共生現象
その2.ある地衣類の一日/特殊能力 体の表面から水分を吸収/特殊能力 乾燥しても死なない
その3.葉状地衣・痂状地衣は丸くなる/ゆっくりと成長する
その4.生活史(子嚢胞子による殖え方)
その5.生活史(栄養繁殖)
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葉状地衣・痂状地衣は,丸くなる

 
 

参考 →(●)葉状地衣・痂状地衣について

   →(●)地衣類の体の造り<詳しく>

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丸く成長するウメノキゴケ科の葉状地衣

葉状地衣や痂状地衣は,だいたい円形をしています.最初は点のようにとても小さく,それが360度どの方向にも同じように成長するためです(下図).痂状地衣の場合には,縁の部分だけが成長していくと考えられます.葉状地衣の場合には,腹面(裏側)の偽根で基物に張り付くので痂状地衣と同様に地衣体中央部は伸びることはありませんが,縁近くの偽根がない,あるいは偽根があってもまだ短くて基物に張り付いていない狭い部分(種類によっても違いますが)が伸びると考えてよいでしょう.
着生地衣類

葉状地衣・痂状地衣の成長は,どれだけ半径が大きくなったかで表します.左図の地衣体が1から2へ,また3へ大きくなるとき,その成長量は,それぞれの矢印の示す分です.

 

地衣類の成長は遅いと言われていますが,では,実際にどの程度なのでしょうか?

 

 

ゆっくりと成長する

千葉市で数年かけて計測した例では,ウメノキゴケ科やムカデゴケ科の葉状地衣では,年間に3~5mmでした(文献1).痂状地衣ははるかに遅く,ニセモジゴケはほとんど成長が確認できませんでした.

 

欧米の研究によると,葉状地衣では日本と同程度の成長(1.68~6.98 mm)を示す種類が多いのですが,カブトゴケ属の一種では9.4 mm,アカツメゴケでは25.0~27.0 mmと早く,逆にイワタケ属の一種では0.17 mmと遅いものもあります.痂状地衣では1 mmにも満たない種類が大半で,中にはチズゴケのように0.1 mmにも達しない例も示されています.(文献2)

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ウメノキゴケ科の葉状地衣(右)はゆっくり成長するが,痂状地衣(左)ははるかに遅いようだ

(文献1)安斉唯夫・原田浩. 2001/ 地衣類数種の1年間の生長量と計測法の試行./ 千葉生物誌 51(1): 32.

(文献2)Hale M.E.Jr. 1983/ The biology of lichens 3rd ed., pp. 79–80./ Edward Arnold, London.

 

地衣類の年齢は?

着生地衣類

左の写真のウメノキゴケは,直径が約15cmあります.年に半径5mmずつ成長を続けたとすると,15歳ということになりますね.

 

和歌山県南部にある景勝地「一枚岩」には直径1mを超すヘリトリゴケが12個も確認され,このうち最大のものは縦1567mm,横1845mmでした.本種の成長速度が年に0.7mmというアメリカでのデータがありますが,この数値をあてはめると,この最大個体の大きさになるには1318年かかることになります.(文献1)

(文献1)原田浩・梅本信也・種坂英次.2002./ 和歌山県古座川町「一枚岩」の巨大ヘリトリゴケ./ Lichenology 1(1): 33.

幹の上では横に長くなる

幹や枝の上に生える葉状地衣・痂状地衣は,まん丸ではなく,多少とも横長になります.右の写真では,葉状地衣のナミムカデゴケ(P)は少しだけ横長,痂状地衣のモジゴケ属(G)は著しく横長であり,一口に横長と言っても大きな違いがあります.これは,木の幹(や枝)の成長の仕方と,地衣類の成長速度との関係によるものです.(文献1)

木の幹や枝は,最初は伸びますが(一次生長),すぐに材が固くなってしまい,もう伸びず,2年目からは太くなるだけです(二次生長).地衣類がそこに着生すると,地衣類自体は丸く成長するのですが,基物となる幹(枝)が太くなる分だけ横に引っ張られてしまい,横長になります.地衣類の成長速度が遅いほど,幹の太くなる速度が速いほど,横長は著しくなります.

 
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(文献1)原田浩.2017./ 樹皮に着生する地衣類の形./ 日本地衣学会ニュースレター (144): 539–540.