・・・< その1 >・・・

この章は,だいぶ難しい内容を含んでいて,文章の割合が多くなっていますが,地衣類がどんな生き物なのかを詳しく知りたい場合には,ぜひご覧ください.下のもくじからお選びください.

 
もくじ
その1.菌類の仲間であること/地衣類という共生現象
その2.ある地衣類の一日/特殊能力 体の表面から水分を吸収/特殊能力 乾燥しても死なない
その3.葉状地衣・痂状地衣は丸くなる/ゆっくりと成長する
その4.生活史(子嚢胞子による殖え方)
その5.生活史(栄養繁殖)
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菌類の仲間であること

●植物と藻類は,光合成をする

あらゆる生物は生きていくために,エネルギーが必要です.植物は水と二酸化炭素を材料にして,光(日光)のエネルギーを使って糖を作ります.これが光合成です.糖を,生きていくためのエネルギー源にするだけでなく,様々な物質に変えて利用します.藻類も,基本的には植物と同じです.

 

●動物は,植物や動物を食べる

動物は,光を使って糖を作れないので,植物や藻類を食べて,エネルギー源にします.あるいは,そういった動物を食べる,という種類もありますね.では,菌類はどうなのでしょう?

 

●菌類は?

菌類も,光を利用して糖を作ることはできません.ですから動物と同じように,植物や動物を食べなくてはなりません.といっても,動物のように口でムシャムシャ食べるわけではなく,とても細い菌糸を使って吸収します.

植物動物菌類
藻類・菌類

植物・藻類,動物,菌類の生き方

地衣類,つまり菌類と藻類の関係

●菌類の生き方は,腐生・寄生・共生

吸収する相手が,生きているのか,死んでいるのかなどによって,腐生・寄生・共生という3つの生き方に分かれます.

腐生: 落ち葉や枯れ枝,枯れ木などを死んでいるもの,あるいは死んでいる部分を分解していく. ・シイタケ(枯木から)

寄生:

生きた植物から栄養を得て,その部分,更には全体を枯らしてしまうこともあります. ・ウドンコ菌(様々な農作物にウドンコ病を引き起こす仲間)
共生: 生きた植物や藻類から栄養をもらいながら,安定した関係を築きます.アカマツとマツタケ(菌根菌)の関係(菌根)がこれにあたります.地衣類も共生にあたります.

・マツタケ(アカマツと)

・地衣類(藻類と)

 

●地衣類の共生菌と共生藻の,生物の系統樹における位置

最近の生物の系統樹を下に示します.地衣類(共生菌)は「L」で示した,菌類,中でも子嚢菌です.共生藻の緑藻類は「G」,ラン藻(シアノバクテリア)は「C」の位置です.

植物動物菌類

 

この系統樹は,「きのこの教え」(文献1)用に原田が作図したものを,一部改変しています.

(文献1)吹春俊光(執筆),原田浩(編集). 2018./ きのこの教え. 28 pp./ 千葉県博図公連携事業実行委員会,千葉市.

 

 

地衣類という共生現象

地衣類という共生関係,菌根という共生関係,この2つは見た目は全く違います.マツタケとアカマツでは,アカマツが巨大なので,地上部に出てくるマツタケ(きのこ)は圧倒的に小さく,添え物のようです.一方,地衣類では,体のほとんどが菌類で,その中に囲われるように藻類が潜んでいます.このように菌根と地衣類では,菌の相対的な大きさが逆転しています.

しかし,地衣類(共生菌)もマツタケも菌類,パートナーとなっている藻類もアカマツも光合成生物です.地衣類と菌根とでは,登場する2つの生物の関係が似ていると言われています.
共生菌・共生藻
共生藻・共生菌のエネルギーの流れ
地衣類の体は,菌類と藻類からできている

菌類と藻類の間で起こっていること.

藻類が光合成をし,菌類は糖アルコールを吸収

●共生藻に頼りっぱなしの共生菌!?

共生藻は,普通の藻類や植物と同じように,日光のエネルギーを使って,水と二酸化炭素から,糖分を作り,これをエネルギー源にして生きています.一方,共生菌は,共生藻から糖アルコールを吸収し,これをエネルギー源にして生きています.つまり共生菌は栄養の面では,共生藻に頼りっぱなしです.

 

●囚(とら)われの共生藻

共生藻は地衣類の体の中で全く身動きができなくて,窮屈そうです.しかも,栄養を取られっぱなしです.このことから,地衣類の事を,「コントロールされた寄生(Lichen thallus as controlled parasitism)」と呼び,共生菌の菌糸でできた牢屋に,共生藻が囚われているイラストを描いた専門家もいます(文献).

といっても,やはり共生藻にもメリットがあるのだと考えられています.

(文献)Ahmadjian V. 1993. The lichen symbiosis, p. 4./ John Wiley & Sons, New York.

 

無機養分
紫外線
菌は,周りから無機養分を吸収し,共生藻に与える

菌類の層(上皮層)が,共生藻を紫外線から守る

●水と無機養分を共生藻に

菌類は,周りから様々な物質を吸収するのが得意な生き物です.アカマツ(植物)がマツタケ(菌根菌)に期待するのもそこで,土の中から養分(例えば,窒素・リン酸・カリ)を効率よく吸収してくれます.地衣類の共生菌は周りから水とともに養分を吸収し,共生藻に与えているのです.(上図の左)

 

●紫外線から守る

地衣類の体の中で,共生藻は,その上側を覆う菌糸の層によって有害な紫外線から守られています(上図の右).日光に含まれる紫外線が人間のお肌に大敵なのはよく知られていますが,藻類にとっても有害なのです.これを菌類の層がはね返したり吸収したりして,さえぎってくれます.こうして共生藻は,安全な住処を得ているのです.