地衣学用語集(試行版)
 
用語: 日本語(よみ)/意味
K
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K−: K−(けーまいなす)/ K反応で,色の変化が無いこと.
K solution: K液(けーえき)/ 呈色反応に用いる試薬.水酸化カリウムの10%水溶液.切片等標品を軟化させるのにも用いる.
K test: Kテスト(けーてすと)/ 呈色反応において,K液を用いたテスト.髄層と皮層に適用する.皮層K+黄色では,アトラノリンを含むことが多い.
KC test: KC(けーしー)/ 呈色反応において,K液を適用した直後にC液を適用し,判定する.
KI: KI(けーあい)/ ヨード反応の試験において,標品をK液で処理した後,I液を適用し判定する.
L
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lactophenol cotton-blue: ラクトフェノールコットンブルー(らくとふぇのーるこっとんぶるー)/ 青色色素コットンブルーをラクトフェノールに溶かした試薬.蛋白と結合するので,切片の細胞内部を青く染めることができる.→LPCB
laminal: 中央部の(ちゅうおうぶの)/ 葉状,鱗片状の地衣体において,裂片の縁部ではなく,中央部に位置すること.子器や裂芽,粉芽を生じる位置を形容するときに使う.marginal(縁部の)に対する語.
later homonym: レーターホモニム(れーたーほもにむ)/ →homonym(ホモニム)
lateral: 側生の(そくせいの)/ 主軸に対して,側方に生じること.樹状地衣の子器や粉子器が,樹状体の側面に生じること.例:ハリガネキノリ属(Bryoria)
lateral branch: 側枝(そくし)/ 樹状の地衣体において,主枝に対し二次的にできる側生の分枝,あるいはそのように見える分枝.
lateral spinule: 側生する棘枝(そくせいするきょくし)/ 側枝のように二次的に生じるが,短く棘状に見えるもの.
lecanorine: レカノラ型(れかのらがた)/ 裸子器の一型.子器盤(子嚢層)の周囲が,地衣体に由来する果托で縁取られる.チャシブゴケ属Lecanoraに因む.
lecanoroid: レカノロイド(れかのろいど)/ レカノラ型裸子器を生じる痂状地衣の群.「lecanoroid」はLecanora(チャシブゴケ属)のようだ,という意味があり,「lecanoroid lichen」は明確な定義はないが,チャシブゴケ属に似ている地衣類の総称と考えてよい.Rinodina(ビスケットゴケ属)は,子器はレカノラ型だが,子嚢胞子が褐色であり,無色のチャシブゴケ属とは容易に区別できるため,レカノロイドと捉えることはない.
lecidein: レキデア型(れきであがた)/ 裸子器の一型.子器盤(子嚢層)の周囲が,果托ではなく,菌糸のみからなる果殻で縁取られる.ゴイシゴケ属Lecideaに因む.
lecideine: レキデア型(れきであがた)/ 裸子器のうち,暗色の果殻が発達し,その外側に果托がないもの.
lecideoid: レキデオイド(れきでおいど)/ 子器がLecidea(ゴイシゴケ属)のようにレキデア型であること,またそのような地衣類の総称はlecideoid lichens.
legitimate: 合法の(ごうほうの)/ 学名が,命名規約(ICN)に則って発表されていること.参考:「effective publication」(効果的な出版),「valid」(有効な)
lens-shaped: レンズ形の(れんずがたの)/ →「lenticular」レンズ形の
lenticular: レンズ形の(れんずがたの)/ モジゴケ属(Graphis)などの子嚢胞子の細胞に見られる,両凸レンズのような形状.
lichen desert: 地衣砂漠(ちいさばく)/ 大気汚染が著しい工業地帯や都市中心部において,地衣類の分布しない場所.
lichen fugi: 地衣菌(地衣菌)/ 地衣類の共生菌,あるいは地衣類が菌類であることを意識した,ややくだけた呼び方.→lichenized fungi
lichen(s): 地衣類(地衣類)/ ライケンと発音する.「lichen」には皮膚病の苔癬(たいせん)の意味もあり,検索の仕方によってはこれらが含まれることがあるので注意.菌類であることを明示したい場合には,「lichenized fungi」と表現する.
Lichenes: 地衣植物(ちいしょくぶつ)/ かつて地衣類という分類群を認めたとき,学名では「Lichenes」と呼んだ.現在は,地衣類は菌類の中の多系統の群と認められていることから,「Lichenes」と呼ぶことはない.
lichen-forming fungi: 地衣形成菌(ちいけいせいきん)/ 地衣類の共生菌のこと.地衣類の体が菌類と藻類からなっていることを強く意識して,その菌類をこう呼ぶことがある.→lichenized fungi
lichenicolous: 地衣生(ちいせい)/ 地衣類の地衣体や子器に生えること.特に地衣生菌は,地衣菌との分類学的な類縁関係にあったり,進化上興味深い.
lichenization: 地衣化(ちいか)/ 菌が,藻類(あるいはシアノバクテリア)と共生し,地衣体を作っていく現象.子嚢胞子から始まる個体としての地衣化と,進化上の地衣化がある.
lichenized: 地衣化した(ちいかした)/ 地衣類の体を構成する菌類あるいは藻類が,「地衣類」という共生関係を成立させた状態.地衣類が菌類であることを強調して,「lichens」ではなく,「lichenized fungi」(地衣化した菌類)という表現が広く使われるようになった.同様に「lichenized Ascomycota」は「地衣化した子嚢菌門」だが,分類群を明示するときに必要な表現である.
lichenized fungi: 地衣化した菌類(ちいかしたきんるい)/ →lichenized.類義語:「lichen fungi」「lichen-forming fungi」「lichen(s)」
Lichenology: ライケノロジー(らいけのろじー)/ 日本地衣学会が発行する学術誌名.
lichenology: 地衣学(ちいがく)/ 地衣類を研究対象とする学問の総称.
lichenometry: リケノメトリー(りけのめとりー)/ 主に生長の遅い痂状地衣を用いて,その大きさと,種ごとに異なる生長速度から,氷河のモレーンなどの成立年代を推定する方法.生長速度は,類似環境に生育する同一種について,建立年代が記されている墓石上の地衣体の大きさから求める.
lignicolous: 材上生(ざいじょうせい)/ 樹木の樹皮ではなく,むき出しになった材の上に生育すること.
linear: 線形の(せんけいの)/ 裂片に関して,幅が一定で,多少とも伸長する形状.
lirella: リレラ(りれら)/ モジゴケ属に見られるような,子器が地衣体表面に沿って水平に線形に延びたもの.円盤状の裸子器においては,子器は360度同じ速度で生長するのに対し,リレラでは2方向のみに生長する.
lirelliform: リレラ状(りれらじょう)/ 裸子器が円形ではなく,細長く伸びること
live: 生育する(せいいくする)/ 地衣類は植物と同様に,この語を使用し,動物に使用される「生息」は使わない.
live: 生息する(せいそくする)/ 動物に対して使われる語で,地衣類では植物と同様に生育の語を使用する.
lobe: 裂片(れっぺん)/ 葉状あるいは鱗片状の地衣体において,枝分かれしたそれぞれの部分
lobule: 小裂片(しょうれっぺん)/ 葉状あるいは鱗片状の地衣体において,その個体の通常の裂片よりもはるかに細かく枝分かれした部分.例:チヂレトコブシゴケ,チヂレシナノゴケ
longitudinal section: 縦断切片(じゅうだんせっぺん)/ 樹状地衣の地衣体や,葉状地衣の裂片などの,長軸に平行に切った切片
lower cortex: 下皮層(かひそう)/ 葉状地衣において,地衣体腹面を覆う皮層
LPCB: ラクトフェノールコットンブルー(らくとふぇのーるこっとんぶるー)/ 切片等を顕微鏡で観察するための封入液.これに含まれる青色色素のコットンブルー(アニリンブルーとも言う)は,タンパク質と結合するとされるため,地衣類の切片を封入すると細胞質が青染する.特に細胞壁が無色の場合が多い地衣類においては,細胞質を染めることにより,組織の形状を詳細に観察しやすい利点があるため多用される.
M
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macroconidia: 大粉子(だいふんし)/ →macroconidiumの複数形
macroconidioma: 大粉子器(だいふんしき)/ 大粉子のみを生ずる粉子器.ほとんどの分類群では,形態の明らかに異なる2種類の粉子を作ることはなく,大粉子器と小粉子器を区別することはないが,マンジュウゴケ属Strigulaなどでは,種によっては大粉子器と小粉子器を作ることもあり,分類形質となっている.
macroconidiomata: 大粉子器(だいふんしき)/ →macroconidiomaの複数形
macroconidium: 大粉子(だいふんし)/ 同一種に2型の粉子があるとき,大型の粉子を指す
macrolichen: 大型地衣(おおがたちい)/ 樹状地衣と葉状地衣の総称.これに対し痂状地衣を小型地衣ということもあるが,日本語ではあまり使う例はない.
maculla: マキラ(まきら)/ マツゲゴケなどの葉状地衣体背面に生ずる,細かな亀甲状あるいは網状の白色の文様.
main branch: 主枝(しゅし)/ 樹状地衣のハリガネキノリ属Bryoriaなどでは,地衣体は基本的にはニ叉分枝を繰り返し,種によってはこれに二次的に側枝や側生の棘枝を生じる.前者のニ叉分枝の部分を指す.
marginal: 縁部の(えんぶの)/ 葉状地衣・鱗片状地衣については,地衣体の縁部に子器や粉芽などが生じるとき,その位置を形容する語.laiminal(中央部の)に対する語.
marine lichens: 海洋生(地衣)(かいようせい(ちい))/ 岩礁海岸の潮間帯付近に生育する地衣類.日本語では海岸生ということもある.
maritime lichens: 海岸生(地衣)(かいがんせい(ちい))/ 海岸付近に生育する地衣類.海洋生地衣類と,ごく近辺の飛沫帯に分布する地衣類を指すこともある.
matt: 光沢がない(こうたくがない)/ →dull
mazaedia: マザエヂア(まざえぢあ)/ mazaediumの複数形
mazaediate: マザエヂアを生じる(まざえぢあをしょうじる)/ mazaediumの形容詞形
mazaedium: マザエヂア(まざえぢあ)/ 子嚢胞子が成熟し子嚢から出た後も,子器から放出されず子器表面に厚く沈着するもの.マザエヂアを生じる地衣類を,「mazaediate lichen」という.強いて訳すなら「マザエヂア形成地衣類」.
medulla: 髄層(ずいそう)/ 地衣体のうち,皮層など特別な組織に分化していない部分.ウメノキゴケ科などの葉状地衣で,地衣体が比較的厚いものでは,共生藻が上皮層の直下に密集し,藻類層を形成する場合は,藻類層を除く.しかし共生藻がほぼ全体に分布する場合には,藻類層とは呼ばず,髄層とする.
medullary: 髄の,髄層の(ずいの,ずいそうの)/ medulla(髄層)の形容詞
melanized: 黒化した(こっかした)/ 内部形態において菌糸組織が著しく黒くなること.「carbonized」(炭化した)と呼ばれることが多いが,炭化するわけではないので,この表現は正しくない.
membranaceous: 膜状(まくじょう)/ 葉状地衣において地衣体がごく薄い場合に,こう呼ぶ
microconidia: 小粉子(しょうふんし)/ microconidiumの複数形
microconidioma: 小粉子器(しょうふんしき)/ 小粉子のみを生ずる粉子器.
microconidiomata: 小粉子器(しょうふんしき)/ microconidiomaの複数形
microconidium: 小粉子(しょうふんし)/ 粉子に2型あるときの,小さいほう
microcrystal test: 顕微結晶法(けんびけっしょうほう)/ 抽出した地衣成分を,スライドグラス上でGE,An,oT,KKなどの試薬を用い結晶化させ,顕微鏡で観察し同定する手法.参考:デジタルミュージアム「地衣成分」
microlichen: 小型地衣(こがたちい)/ 痂状地衣のこと.これに対し大型地衣は,樹状地衣と葉状地衣を指す.
microrugulate: 微細な皺を生じる(びさいなしわをしょうじる)/ 非常に小さな皺があるという意味だが,子嚢胞子などの表面の形状に対して用いられる.
moniliform: 数珠状の(じゅずじょうの)/ チョロギウメノキゴケと近縁種の髄層に見られるチョロギ細胞(bulbate hyphae)のように,球形の構造が複数連なる状態.共生シアノバクテリアのNostocネンジュモ属の丸い細胞が連結する状態もこれにあたる.
mono-lobed: 単葉(たんよう)/ 葉状地衣の地衣体などで,全く枝分かれしない状態.イワタケ属・カワイワタケ属においては,一つの臍状体に,概ね円形の一つの葉状体がつく状態
multi-lobed: 複葉(ふくよう)/ イワタケ属・カワイワタケ属においては,一つの臍状体から複数の葉状体が生ずる状態
muriform: 石垣状多室(いしがきじょうたしつ)/ 子嚢胞子において,隔壁が横・縦ともにある状態.光学切片では,その様子が石垣のようにみえるため.
mycelia: 菌糸体(きんしたい)/ myceliumの複数形
mycelium: 菌糸体(きんしたい)/ 菌糸の集合体.
"-mycetes: 綱(接尾辞)(こう)/ 菌類の分類階級「綱」の分類群名の末尾に付けられる接尾辞.参考:綱(class)
"-mycetidae: 亜綱(接尾辞)(あこう)/ 菌類の分類階級「亜綱」の分類群名の末尾に付けられる接尾辞.参考:綱(class)
MycoBank: マイコバンク(まいこばんく)/ 新種など新しい学名を発表するときに,命名規約(ICN)によって登録が義務付けられている菌類学名のデータベース.
mycobiont: 共生菌(きょうせいきん)/ 地衣類の体を構成する菌類.
"-mycota: 門(接尾辞)(もん)/ 菌類の分類階級「門」の分類群名の末尾に付けられる接尾辞.参考:門(division)
N
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neotropical: 新熱帯の(しんねったいの)/ アメリカ大陸の熱帯地方に分布すること.そのような分布を新熱帯分布.
new combination: 新組み合わせ(しんくみあわせ)/ 既に発表されている種名を別の属に移したり,別の種の種内分類群にするとき,元のエピセット(以下の例では「tinctorum」)を新しい分類群と組み合わせること.例えば,ウメノキゴケは,最初「Parmelia tinctorum Nyl.」として記載されたが,HaleによりParmotrema属に移され,新組み合わせ「Parmotrema tinctorum (Nyl.) Hale」が作られた.種内分類群名についても同様.
nomen novum: 新名(しんめい)/ 例えば種名の場合,種XをA属からB属に移すときは,「B属の学名+元のエピセット」という新組み合わせの種名となる.しかし,既にそれと同じ組み合わせ(しかもタイプが別)が存在するときは,レーターホモニムとなり採用できないため,「B属の学名+新しいエピセット」からなる新名を提案することができる.
nomen nudum: 裸名(らめい)/ 命名規約(ICN)に則った原記載がなされていない学名.
nomenclature: 命名規約(めいめいきやく)/ 生物の学名の付け方,使い方を定めたルールブックのこと.地衣類(菌類)の学名は,「国際藻類・菌類・植物命名規約」(”International Code of Nomenclature for Algae, Fungi, and Plants”)(略号ICN)に従わなければならない.→ICN
O
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oblong: 長円形(ちょうえんけい)/ 概ね円筒形だが,両端が丸い立体.
obpyriform: 倒洋ナシ形(とうようなしけい)/ 洋ナシ形(pyriform)が上下逆さまになった形.→pyriform
ocular chamber: オキュラーチャンバー(おきゅらーちゃんばー)/ 子嚢先端部で子嚢内壁が肥厚し,その肥厚部の下面に生ずる凹み.LPCB標品においては,子嚢先端方向に飛び出た青い突起として見える.
ontogeny: 発生(はっせい)/ 子器や子嚢,子嚢胞子など様々な構造の,発達の過程.
optical section: 光学切片(こうがくせっぺん)/ 生物顕微鏡で大きな子嚢胞子を観察すると,実際に切片を作っているわけではないが,切断面を見たかのような像を観察することができる.その見ている面を指す時に用いる.
orbicular: 丸い(まるい)/ 裸子器や,葉状地衣の地衣体の表面観(上から見た形)が丸いことを示す語.
order: 目(もく)/ 科より上位にある主要な分類階級の一つ.その分類群名には,Lecanoralesのように末尾に「-ales」がつく.
original description: 原記載(げんきさい)/ 新種などの新しい学名を発表時における記載.かつてはラテン語で記載することが義務付けられていたが,現在ではその他の言語でも認められている.
ostiole: 孔口(こうこう)/ 被子器の開口部.
oT: オーティー(おーてぃー)/ 顕微結晶法に用いる試薬.oT(オルトトルイジン):グリセリン=1:3.
oT: オルトトルイジン(おるととるいじん)/ →oT(オーティー)
oval: 卵形(らんけい)/ 卵を側面から見たときの,2次元の形
ovoid: 卵形(らんけい)/ 卵形(oval)の回転体,3次元の形.卵の形.「ellipsoid」(楕円体)で最も幅広いのは中央だが,それが中央より下にきたのが楕円体.