地衣学用語集(試行版)
 
用語: 日本語(よみ)/意味
P
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P test: Pテスト(ぴーてすと)/ 地衣成分検査法の一つの呈色反応の中で,パラフェニレンジアミンのエチルアルコール溶液を用いたテスト.朝比奈泰彦が考案した.PDテストと呼ぶこともある.
paleotropical: 旧熱帯の(きゅうねったいの)/ アジア~アフリカの熱帯地域に分布すること.その分布を旧熱帯分布という.
pantropical: 汎熱帯性の(はんねったいせいの)/ 旧熱帯(アジア~アフリカ)と新熱帯(アメリカ大陸)とに分布すること.そのような分布を汎熱帯分布という.
papilla: パピラ(ぱぴら)/ 乳頭状突起ともいう.
papillate: パピラを生じる(ぱぴらをしょうじる)/ →papilla(パピラ)
paraphyses: 側糸(そくし)/ 子嚢層内菌糸系の一つ.子嚢下層より子嚢と平行に上に伸び,子嚢層を埋める,概ね単一の菌糸.発生が不明の場合には,側糸に見えるものを総称することがある.
paraphysis: 側糸(そくし)/ →paraphysis(の単数形)
paraphysoid: 側糸状体(そくしじょうたい)/ 子嚢層内菌糸系の一つ.被子器においては,子嚢下層より上に伸び,盛んに分枝癒合し網目状となり,被子器壁内面の側部や上部にも連結する.裸子器においても,同様に盛んに分枝癒合し網目状となるものを指す.
paraplectenchyma: 異形菌糸組織(いけいきんしそしき)/ 菌糸組織のうち,多少とも等直径(isodiametric)の菌糸細胞からなるもの.細胞がほとんど等直径であれば,真正異形菌糸組織(euparaplectenchyma),多少とも伸びていれば亜異形菌糸組織(subparaplectenchyma)と呼び分ける.かつては「偽柔組織」(pseudoparenchyma)と呼ばれた.細胞同士が多少とも離れ,空隙を生じる場合には,異形菌糸組織様(いけいきんしそしきよう)(paraplectenchyma-like)と呼ぶ.菌糸が繊維状の菌糸組織は,繊維菌糸組織(prosoplectenchyma)という.
parasymbiont: パラシンビオント(ぱらしんびおんと)/ 地衣体中に第2の菌として侵入し,既存のフォトビオントと共生状態を成立させるが,元の地衣体に殆ど害を及ぼさず,安定した状態を保ち生育するもの.
parathecium: パラテシウム(ぱらてしうむ)/ 果殻(proper exciple)の別称.
PD test: PDテスト(ぴーでぃーてすと)/ →P test
peltate: 盾状の(たてじょうの)/ 円盤状の地衣体が腹面中央の1点で基物に固着する形状.基本的には臍状体がある(umbilicate)地衣体と同じだが,その代表のUmbilicaria(イワタケ属)に対しては,peltateと称することはない.Peltula(タテゴケ属)のような,地衣体が小さなものに対して用いる.
pelucid: 透明の(とうめいの)/ 外部形態において,透明であること.内部形態では,「colorless」(無色)とすることが多い.
pendulous: 懸垂性の(けんすいせいの)/ ナガサルオガセ(Usnea longissima)のように,地衣体が基部から垂れ下がっているような形状.参考:「upright」直立の
periclinal: 平行な(へいこうな)/ 表面に対し平行であること.垂直は「anticlinal」
periostiolar cap: ペリオスチオーラーキャップ(ぺりおすちおーらーきゃっぷ)/ 被子器において,孔口(ostiole)を中心とする,暗色となった子器頂部.マルゴケ属Porinaで用いられる.
periphyses: 周糸(しゅうし)/ 被子器において,孔口とその下部内側から生ずる菌糸.
perispore: 外膜(がいまく)/ 子嚢胞子の細胞壁の外側に生じる,ゼラチン質など通常は細胞壁よりも軟質に見える膜状構造.「(子嚢)胞子外膜」と言ってもよい.
perithecia: 被子器(ひしき)/ peritheciumの複数形
perithecium: 被子器(ひしき)/ 子器の一型.子嚢を含む子嚢層が裸出せず,果殻などの保護組織で完全に包まれ,孔口と呼ばれる小孔のみで外界に通じ,全形が概ね壺状である.複数形:perithecia
"-philous: 好む(このむ)/ 「好む」という意味の接尾辞.例:「calciphilous」で好石灰性.
"-phobus: 嫌う(きらう)/ 「嫌う」という意味の接尾辞.例:「calciphobus」で嫌石灰性.
phorophyte: フォロファイト(ふぉろふぁいと)/ 着生植物(epiphyte)が着生している植物のこととされ,この場合の着生植物には地衣類を含む.宿主植物と表現することもあるが,宿主(host.ホスト)は寄主(parasite)に対する語であるため,寄生される植物という印象を受けかねない.着生であることを明確にするためには避けるべきで,「フォロファイト」と呼ぶか,あえて訳すなら「被着生植物」とするのが妥当である.
photobiont: フォトビオント(ふぉとびおんと)/ 古くは共生藻と言ったが,藍藻をシアノバクテリアと呼ぶようになったことを受け,名称を変更した.「光合成を行う共生生物」という意味.
photobiont layer: フォトビオント層(ふぉとびおんとそう)/ 異層葉状地衣において,藻類の分布する層.もとは「algal layer」藻類層と呼ばれたが,緑藻ではなくシアノバクテリアがフォトビオントとして共生する例があることから,呼び変えられるようになった.参考:「algal layer」藻類層
photosymbiodeme: フォトシンビオディーム(ふぉとしんびおでぃーむ)/ 緑藻を共生藻とする部分(地衣体)と,シアノバクテリアを共生藻とする部分(地衣体)が,一つの地衣体として結合している状態.カブトゴケ科で知られる.
phycobiont: 共生藻(きょうせいそう)/ 古くは緑藻と藍藻(シアノバクテリア)を含め共生藻と言った.最近では,シアノバクテリアを除き,緑藻のみに用いることが多くなった.
phyllocladium: 棘枝(きょくし)/ キゴケ属Stereocaulonにおいて,共生藻(緑藻)が分布する,顆粒状・円筒状・鱗片状の突起.
placodioid: プラコディオイド (ぷらこでぃおいど)/ 痂状地衣のうち,地衣体周辺部で裂片化するもの.鱗片状に見えるが,下皮層を欠き,基物に髄層で付着する.
plectenchyma: 菌糸組織(きんしそしき)/ 菌糸が互いに癒合してできた緻密な組織.
plurilocular: 多房(たぼう)/ 粉子器において,内腔ははじめ単房だが,発生とともに枝分かれし多房化するものが知られている.
podetium: 子柄(しへい)/ ハナゴケ属において,体の大部分を占める樹状部は,子器の発生の一環として生じたもの,つまり子器の柄であると見なし,地衣体と区別して呼ぶ.
polygonal: 多角形の(たかっけいの)/ 細胞の断面(光学切片)において,角張った状態.
polyspory: 多胞子性(たほうしせい)/ 1子嚢中の子嚢胞子数は通常は8個だが,これより明らかに多い数の時.比較的多い例では,16,32など,あるいはホウネンゴケ属(Acarospora)では明らかに100以上で計数が困難である.
preparation: プレパラート(ぷれぱらーと)/ 生物顕微鏡観察用に作製された,切片などをGAWなどの封入材を加えカバーグラスをかけたスライドグラスの標品.GAWで封入したものをGAW標品,LPCBで封入したLPCB標品などがある.
preparation: 標品(ひょうひん)/ 内部形態を観察するための切片をプレパラートとしたもの.GAWで封入するとGAW標品(GAW preparation),LPCBならLPCB標品(LPCB preparation)という.
primary thallus: 基本葉体(きほんようたい)/ ハナゴケ属において,個体発生の初期にできる鱗片状の地衣体.のちにこれから樹状の子柄が生じる.基本葉体が栄養体であるのに対し,子柄は子器発生の一部として生ずるため栄養体ではないとみなされる.
primordium: 原基(げんき)/ 地衣類においては,子器発生初期の構造を指す時に用いる.複数形は「primordia」.
priority: 先取権(せんしゅけん)/ 命名規約(ICN)によると,2つの学名が同一のものを指す場合,より早く記載(発表)された学名を採用するとしている.この優先権のこと.
proper exciple: 果殻(かかく)/ 子嚢層を包む(フォトビオントを含まない)菌糸組織.子嚢下層の下側に至る場合もある.裸子器において,子嚢下層の下側の組織が,子嚢層の側方の果殻と区別できるときは,前者をhypotheciumとして区別する.
proper margin: 果殻縁部(かかくえんぶ)/ レキデア型・ビアトラ型の裸子器における子器の縁部.果殻でできているため.
prosoplectenchyma: 繊維菌糸組織(せんいきんしそしき)/ 菌糸組織のうち,明らかに繊維状の菌糸の形状が残っているもの
prostrate: 匍匐性の(ほふくせいの)/ 基物表面を這うように生長する樹状地衣の形状を指す.参考:「decumbent」
prothallus: プロタルス(ぷろたるす)/ 痂状地衣において,地衣体は共生藻を含むが,外周にできる共生藻を含まない構造.地衣体の下側にできるものは,下菌糸(hypothallus)として区別する.
pruina: 粉霜(ふんそう)/ 地衣体あるいは子器盤などの表面に生ずる,粉末状あるいは結晶様の物体,あるいはその集合.ハクフンゴケ属やコフキツメゴケなどでは,地衣体背面に白色の顕著な粉霜を生じる.また,カシゴケ属の子器盤には,黄色の粉霜を生じる.
pruinose: 粉霜をつける(ふんそうをつける)/ →pruina(粉霜)
pseudocyphella: 偽盃点(ぎはいてん)/ 皮層を生じる葉状地衣などにおいて,地衣体表面にできる点状,線状などの構造.周りの皮層に比べ菌糸間の結合が緩く空間が多い.
pseudoparenchyma: 偽柔組織(ぎじゅうそしき)/ 植物の柔組織(parenchyma)のように,概ね球形の細胞の集合からなる菌糸組織を意味する古い用語.異形菌糸組織(paraplectenchyma)のこと.
pseudopodetium: 擬子柄(ぎしへい)/ キゴケ属の樹状の地衣体.子器発生に伴って生ずるとみなされるハナゴケ属の子柄(podetium)に似るが,キゴケ属のものは地衣体由来であるため擬子柄とされる.
psilate: 平滑な(へいかつな)/ 表面に凹凸がない.子嚢胞子の表面の記載で用いられることがある.
pubescent: ()/ 短い毛を生じた状態
pustulate: パスチュールをつける(ぱすちゅーるをつける)/ pustuleの形容詞形.→pustule
pustule: パスチュール(ぱすちゅーる)/ (1)ウメノキゴケ科ではヒカゲウチキウメノキゴケ,コナヒメウメノキゴケなどに見られ,地衣体背面の皮層・藻類層がそれより下の髄層から剥がれ,泡状に膨れた構造で,しばしば壊れて粉芽化する.(2)オオイワブスマLasallia pensylvanicaなどにおいて,地衣体背面に飛び出したドーム状の構造(腹面側は,それに応じて窪む).形容詞形:pustulate
pycnidia: ()/ pycnidiumの複数形
pycnidium: 粉子器(ふんしき)/ 粉子を生ずる器官.「pycnidia」は複数形.→conidium(粉子)
pyriform: 洋ナシ形(ようなしがた)/ 洋ナシのように,球形よりも縦長に伸び,下が少し膨れた形.
Q
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R
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reniform: 腎臓形の(じんぞうけいの)/ 子嚢胞子などの形状で,腎臓のような形をしていること.
rhizinate: 偽根がある(ぎこんがある)/ 参照:偽根(rhizine)
rhizine: 偽根(ぎこん)/ 葉状地衣の地衣体腹面から生ずる,根のような突起.地衣体を基物に固着させる.
rhizinomorph: 偽根様体(ぎこんようたい)/ イワタケ属の腹面にある,偽根のような突起.地衣体を基物に固着する機能は無い.
rhizohyphae: リゾハイフェ(りぞはいふぇ)/ ミドリゴケ属などの鱗片状地衣で,腹面より伸び出る菌糸.地衣体を基物に固着させる.
rhomboid: 菱形の(ひしがたの)/ サネゴケ属(Pyreunula)の多くの種の子嚢胞子を生物顕微鏡で観察すると,細胞が菱形である.このように見える立体の形状(2つの円錐の底面をくっつけたような回転体).(平面の菱形はrhombus)
rimose: 半ば区画化する(なかばくかくかする)/ 痂状地衣において,地衣体中心部は亀甲状に割れるが,周辺部では割れなかったり,不完全に割れたりする状態.細かく割れるものを特に,rimuloseとすることがある.
rimulose: 半ば区画化する(なかばくかくかする)/ →rimose
round: 丸い(まるい)/ 裂片に関して,先端に向かい幅が広くなり,丸い形状を示すこと.
rugose: 皺がある(しわがある)/ 地衣体表面などにおいて,皺を生じた状態
rugulose: 小皺がある(こじわがある)/ 皺がごく細かい場合
S
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saxicolous: 岩上生の(がんじょうせいの)/ 岩石上に生えること.狭義の岩上生epilithicとは異なり,岩内生endolithicも含む.
scabrous: 鮫肌状(さめはだじょう)/ サメハダツメゴケの背面のように,非常に微細な多角形の突起で覆われた状態.
schizidia: シジディア(しじでぃあ)/ schizidiumの複数形
schizidiate: シジディアを生じる(しじでぃあをしょうじる)/ →shizidium
schizidium: シジディア(しじでぃあ)/ 栄養繁殖器官の一つ.センニンゴケ属やクズレマツゲゴケに見られ,地衣体背面(表面)付近が剥がれ,栄養繁殖体として働く一つ一つの断片.センニンゴケ属では円盤形だが,クズレマツゲゴケでは多少とも多角形.
sclerenchyma: 厚壁組織(こうへきそしき)/ 細胞壁が肥厚した組織.→scleroplctenchyma
scleroplectenchyma: 厚壁菌糸組織(こうへききんしそしき)/ 菌糸壁が肥厚した菌糸組織.かつては「sclerenchyma」(厚壁組織)と呼ばれたが,菌糸組織であることから呼び変えられるようになった.
scyphi: 盃(はい)/ 「scyphus」の複数形.→「scyphus」,「cup」(いずれも盃).
scyphus: 盃(はい)/ ハナゴケ属(Cladonia)の一部の種の子柄先端に生じる皿状あるいはカップ状の構造.複数形は「scyphi」.「cup」と同義.
section: 切片(せっぺん)/ 子器や地衣体などを,カミソリなどで薄く切ったもの.
section: 節(せつ)/ 種と属の間の分類階級の一つ.
semiaquatic freshwater: 半淡水生(はんたんすいせい)/ 渓谷など淡水域において,定期的に冠水する岩上に生育する地衣類を,半淡水生地衣類.その環境を半淡水環境
semipelucid: 半透明の(はんとうめいの)/ 外部形態において半透明であること.→「pelucid」(透明の)
septa: ()/ septumの複数形
septate: 隔壁がある(かくへきがある)/ septumの形容詞形
septum: 隔壁(かくへき)/ 菌糸,子嚢胞子などの内部を隔てる細胞壁.複数形:septa
sessile: 無柄の(むへいの)/ 裸子器のうち,地衣体から突出しつつ,地衣体に接した状態.地衣体から浮き上がったように見えるものは有柄(stipitate),地衣体に幅広く圧着するものは「applanate」という.
sexual reproduction: 有性生殖(ゆうせいせいしょく)/ 地衣類(共生菌)においては,子嚢胞子(あるいは担子胞子)による繁殖とされる.しかし,子嚢胞子の形成は,造嚢器(♀)に粉子(♂)の核が移動し二核化することで可能になるため,この過程の前後から有性生殖と考えるのが自然であろう.その造嚢器から伸び出た造嚢糸の先端に生じる子嚢の中で,二核(n+n)が合核し複相(2n)となり,減数分裂をと体細胞分裂を経て,子嚢胞子(n)を生じると考えられている.
shiny: 光沢がある(こうたくがある)/ →glossy
sigmoid: S字形の(えすじがたの)/ 細長い(披針形や線形の)子嚢胞子や粉子が,極端に言えば「S」のように湾曲する形.
simple: 単一の(たんいつの)/ 側糸などで,分枝しない状態
simple: 単室の(たんしつの)/ 子嚢胞子などで,隔壁がないもの.
solid: 中実(ちゅうじつ)/ 樹状地衣の樹状部で,中に菌糸が詰まった状態.反対語:中空(hollow)
soralia: 粉芽塊(ふんがかい)/ soraliumの複数形
soralium: 粉芽塊(ふんがかい)/ 粉芽を生じる部分.粉芽が堆積することが多いことから,粉芽塊と呼ばれる.複数形:soralia
soredia: 粉芽(ふんが)/ sorediumの複数形
sorediate: 粉芽をつける(ふんがをつける)/ sorediumの形容詞形.→soredium
soredium: 粉芽(ふんが)/ 地衣類の栄養繁殖器官.共生藻の多数の細胞と菌糸が絡み合ってできた球形の構造.強風や水滴などによって粉芽塊から容易に離れる.複数形:soredia
species: 種(しゅ)/ 分類階級で,最も基本的な階級.一般的には,その階級の分類群のことを指す.
specific epithet: 種小名(しゅしょうめい)/ 種名,例えば「Phloeopeccania japonica H.Harada」においては,「japonica」がこれにあたる.単に「epithet」(エピセット)ということもあるが,種内分類群,例えば「Lobaria meridionalis var. subplana (Asah.) Yoshim.」においては,「subplana」もエピセットである.種内分類群のエピセットと区別する必要があるときには,「specific epithet」とする.
spherical: 球形の(きゅうけいの)/ ボールのように球体であること.
spinulose branch: 棘状の分枝(とげじょうのぶんし)/ 樹状地衣において主枝に直角に近い角度で付く,短い分枝.
spongiastrum: 海綿状組織(かいめんじょうそしき)/ アンチゴケ属(Anzia)の地衣体腹面側にある,スポンジ状の組織.
spot test: スポットテスト(すぽっとてすと)/ →「color test」(呈色反応)
squamose: 鱗片状の(りんぺんじょうの)/ 鱗片状のうち比較的大きなものを指す.
squamule: 鱗葉(りんよう)/ 鱗片状の構造を指す.ハナゴケ属の子柄表面に生じるものもこれ.
squamulose: 鱗片状の(りんぺんじょうの)/ 基本的な地衣体の形は葉状と同じだが,小さなもの.
squarrose: スカロース(型)(すかろーす(がた))/ 偽根の分枝パターンの一つで,長く伸びた主軸から側枝が伸び,さらに細かく分枝を繰り返す.はじめは,ウメノキゴケ属の偽根の形態を区分するのに考案された.
sterile: 無子器の(むしきの)/ もとは「不妊の,汎食糧kの無い」という意味だが,地衣類では標本に子器がない状態を示す.
stipitate: 有柄の(ゆうへいの)/ 柄があること.特に裸子器において,子器が地衣体から飛び出し,多少とも浮き上がって基部がくびれた状態.
subcuticular: クチクラ下生(くちくらかせい)/ 生葉上地衣の中でも,葉のクチクラ層の下に地衣体が生ずるもの.アオバゴケなどマンジュウゴケ属Strigulaの生葉上種が該当する.
subglobose: 亜球形(あきゅうけい)/ 球形に近いが,わずかに縦に伸びた形.参考:「globose」(球形)
subhymenium: 子嚢下層(しのうかそう)/ 子嚢層の下にあって,造嚢糸を含む層.子器縦断切片のラクトフェノールコットンブルー標品では,造嚢糸が濃鮮し,しかも周りの菌糸より著しく太いことが多いため,判別が容易となる.ヒポテシウム(hypothecium)も含めて,subhymeniumと呼ぶ例もあるので注意が必要.
sublinear: 類線形の(るいせんけいの)/ 裂片に関して,幅が一定で,多少とも伸長する「線形」(linear)に準じること.
submarginal: 類縁部の(るいえんぶの)/ 葉状地衣・鱗片状地衣については,地衣体の縁部に子器や粉芽などが生じるときは,つく位置は「marginal」(縁部の)だが,縁部の近くにつくと「submarginal」.
submuriform: 亜石垣状多室(あいしがきじょうたしつ)/ 子嚢胞子において,石垣状多室と同様に横・縦の隔壁があるが,縦の隔壁が少ないため,平行多室に近い状態.
subparaplectenchyma: 亜異形菌糸組織(あいけいきんしそしき)/ 真正異形菌糸組織に似るが,細胞が多少とも伸張し,繊維菌糸組織との移行形をなすもの.
subparaplectenchymatous: 亜異形菌糸組織の(あいけいきんしそしきの)/ subparaplectenchymaの形容詞形
subspecies: 亜種(あしゅ)/ 種内分類群のうち主要ではない分類階級の一つ.種と変種の間.省略形は「subsp.」.
substrata: 基物(きぶつ)/ →substratum(の複数形)
substratum: 基物(きぶつ)/ 生育基物.着生基物ともいうが,「着生」を狭義で使うと問題を生じるため,使わないのが無難.
synonym: シノニム(しのにむ)/ →synonym(異名)
synonym: 異名(いめい)/ 例えば種名の場合,複数の種名が同一種であると判断したとき,命名規約(ICN)に則り,一つの種名は正名(correct name),他は異名となる.省略形は「syn.」.
T
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tangential: 接線の(せっせんの)/ 球体においては,表面に接する面に並行する面の方向.円柱形においては,側面に接する面に平行する面の方向.
taxa: 分類群(ぶんるいぐん)/ →taxon(の複数)
taxon: 分類群(ぶんるいぐん)/ 分類学的に定義されるグループのことで,分類階級ごとに分類群はある.科以上の分類階級の分類群を高次分類群といい,種より下の分類階級(亜種,変種,品種など)の分類群を種内分類群という.
taxonomic rank: 分類階級(ぶんるいかいきゅう)/ 学名に関連した語.命名規約において基本的な分類階級は種,属,科,目等としている.
teleomorph: 完全世代(かんぜんせだい)/ 子嚢胞子(あるいは担子胞子)により繁殖する生活環の世代.地衣類では,子嚢果,つまり子器がこれに相当する.地衣類の体には,子器(完全世代)を生じると同時に,粉子器(不完全世代と考えられる)を生じることもまれではなく,同一地衣体の一部は完全世代,一部は不完全世代からなる状態となる.
terete: 円柱状(えんちゅうじょう)/ 樹状の地衣体のような細長い構造物において,横断面が円形であること.
terminal: 頂生の(ちょうせいの)/ 樹状地衣において,子器や粉子器を頂部に生じること.例:カムリゴケ属(Pilophorus)
terpenoid: テルペノイド(てるぺのいど)/ 地衣成分の一群.
terrestrial: 陸上生の(りくじょうせいの)/ 海岸生(marine and maritime)でない地衣類に対して使うことが多い.
terricolous: 地上生(ちじょうせい)/ 生育基物として土や腐植質,砂など,地上にあるものに生えること.
thalli: 地衣体(ちいたい)/ 「thallus」(地衣体)の複数形.→「thallus」
thallinocarp: タリノカープ(たりのかーぷ)/ レンダイゴケ属(Lichinella)などツブノリ科(Lichinaceae)の一部の属に見られる子器の型.子器の発生初期に,分枝・生長していく造嚢糸が分化した組織によって取り囲まれるのが通常だが,このタイプの子器では取り囲まれず,地衣体が子嚢層へと直接変化していくとともに果殻に囲まれることはない.このため,レンダイゴケ属においては,子嚢層の上側に,地衣体の断片が断続して分布する.
thallinocarpous: タリノカープの(たりのかーぷの)/ 「thallinocarp」タリノカープの形容詞形.→「thallinocarp」
thalloid exciple: 果托(かたく)/ レカノラ型裸子器の外側を包む,主に地衣体由来の組織で,共生藻が分布する.
thalloid margin: 果托縁部(かたくえんぶ)/ レカノラ型子器の縁部.果托で構成される.主に外部形態の記載で用いる
thallus: 地衣体(ちいたい)/ 植物学用語では「葉状体」というが,地衣類では「地衣体」と呼ぶ.地衣類の体のうち,子器ではない,栄養体の部分.複数形は「thalli」
thin-layer chromatography: 薄層クロマトグラフィー(はくそうくろまとぐらふぃー)/ 地衣成分を分析する方法の一つ.
tholus: トールス(とーるす)/ 子嚢先端に詰まる,子嚢外壁とは区別できる部分.ウメノキゴケ科,チャシブゴケ属などでは,ヨードで青く染まるアミロイド.apical plugとほぼ同義.
TLC: TLC(てぃーえるしー)/ 薄層クロマトグラフィーのこと
tomentum: トメンタ(とめんた)/ 地衣体などの表面に生じる,菌糸の集合.フェルト状,クモの巣状などの形状がある.
transversely septate: 平行多室(へいこうたしつ)/ 子嚢胞子において,横隔壁があり,縦隔壁がない状態
Trebouxia: トレボウクシア(とれぼうくしあ)/ 地衣類の代表的な共生藻の属.単細胞性の緑藻で,ウメノキゴケ科をはじめとする様々な地衣類の共生藻となっている.英語では「トレブクシア」
trebouxioid: トレブクシオイド(とれぶくしおいど)/ 共生藻が,「Trebouxia」トレボウクシアのように見える場合にこう呼ぶ.地衣体内の共生藻を正確に同定するには,分離培養し生活史を観察するか,DNAから判定するしかないため,困難である.このため,「Trebouxia」だろうという意味で,「trebouxioid」と記載することが多い.
Trentepohlia: スミレモ属(すみれもぞく)/ スミレモ属は糸状の緑藻で,モジゴケ科(Graphidaceae)をはじめ,熱帯を本拠とする多くの地衣類の共生藻となっていると考えられていた.しかしこの緑藻の群の分類研究が進んだ結果,地衣類の共生藻となっているのはこの仲間の幾つかの属であることが明らかになってきた.このため,地衣類の分類の研究においては,共生藻はスミレモ属に似ている,という意味で「trentepohlioid」と記すようになった.
trentepohlioid: トレンテポーリオイド(とれんてぽーりおいど)/ 共生藻が「Trentepohlia」(スミレモ属)に似ていることを意味する.→「Trentepohlia」スミレモ属
trichogyne: 受精毛(じゅせいもう)/ 子嚢菌において,造嚢器から伸び表面まで達する菌糸.これに不動精子(子嚢地衣では,粉子がこれにあたると考えられる)が付着・癒合し,その核が入り,造嚢器まで移動する.
type: タイプ(標本)(たいぷ(ひょうほん))/ 「typus」(タイプ)の英語形.→typus
typus: タイプ(標本)(たいぷ(ひょうほん))/ 学名の基準となる標本.学名の発表(原記載)時に指定することが定められている.英語形は「type」.地衣類においては,非常に古い学名にわずかな例外はあるものの,タイプと言えば標本を指すが,「type specimen」と書くことが多い.他の生物群においては,プレパラートだったり,写真や図という場合もある.複数形は「typi」