生態園 植物群落園

生態園 植物群落園

 植物群落園では房総の代表的な森林や草地を再現しており、季節とともに移り変わる自然の姿や動植物の生態が観察できます。植物群落園は、「南総の自然」と「北総の自然」という2つの部分からなっています。
 「南総の自然」は、南房総に見られる自然林が再現されています。入口の海岸植生では春から秋にかけて海岸植物が咲きほこります。続いて、うっそうと茂った常緑の照葉樹林(タブノキ林、スダジイ林、アカガシ林)が現れます。その先には、山地性のモミ・ツガ林が見られます。来園された方は、あたかも房総の海岸に上陸後、内陸の丘陵地に分け入っていくような感じで、風景の移り変わりを楽しむことができるでしょう。
 「北総の自然」は、北総台地の植生を展示しています。人々は、生活や農業を営むために植生をつくりかえてきました。北総では、建材などに使うアカマツ林、薪炭や堆肥に使うコナラ林(いわゆる雑木林)、かやぶきの材料などに使うススキ草地などが順路にそって次々と現れます。せせらぎを経て坂をおりると湿原が見えます。春先にはヤナギ類がいっせいに開花し、秋~冬にはヒメガマの穂におおわれます。

生態園歳時記(デジタルミュージアムのページにジャンプ)


海岸植生

 海岸に成立する独特の植物群落です。海岸は塩分が多い上に土壌が薄く、栄養分も乏しいため、普通の植物は生育しにくい環境です。海岸は大きく砂浜と岩場(岩石海岸)に分けられます。生態園では入口近くに砂浜の景観が造られ(写真上)、ハマゴウ・ハマヒルガオ・コウボウムギ・ハマボウフウなどが春から夏にかけてたくさんの花をさかせます。塩水をまくことはせず、かわりに水はけをよくしています。その奥に岩石海岸の風景が造られ(写真下)、晩秋にはイソギクの花に黄色く彩られます。その背後にクロマツ・トベラ・マサキ・シャリンバイなどの海岸林が続きます。この岩場には蛇紋岩・安山岩・チャートなどが配置され、千葉県産の岩石の観察地にもなっています。

海岸植生・オリエンテーションハウス
海岸植生とオリエンテーションハウス

海岸植生・岩石園
海岸植生と岩石園

照葉樹林(タブノキ林、スダジイ林、アカガシ林)

 おもに関東より西にみられる常緑広葉の自然林です。現在、神社仏閣の周りに「鎮守の森」として残っているのがそれで、人間が切り開く前は関東から九州までの低地を広く覆っていたと考えられています。林内では昼間も薄暗く、樹木が密に茂っています。低地ではスダジイが卓越しますが、丘陵地ではカシ類(アカガシ・ウラジロガシ等)が増え、沿岸部ではタブノキが多くなります。これらの木は、厚くテカテカ光る葉をもつことから照葉樹とも呼ばれています。これは葉の表面に発達したクチクラによるもので、ヨーロッパなどの常緑樹にはみられない特徴です。このような照葉樹林帯における焼畑農耕文化として始まったのが縄文文化である、とされることから、照葉樹林は日本文化をはぐくんだ自然として注目されています。
 生態園では、順路にそってタブノキ林・シイ林・カシ林が現れ、その間にヤブニッケイ・アオキ・ヤブツバキ・ヒサカキなどの常緑樹が植えられています。

照葉樹林1 照葉樹林2
照葉樹林

モミ・ツガ林

 照葉樹林の上部に断続的に出現する温帯性の針葉樹林です。ふつうシイ・カシ林は標高が上がるにつれて山地性のブナ林に置き換わりますが、ブナが生育するには夏暑すぎ、かといって冬に気温が下がるためシイ・カシが生長しにくいようなところに、このモミ・ツガ林が成立します。モミ・ツガ林は東北南部から九州にかけて点々と分布しており、房総丘陵では尾根や急斜面などに多くみられます。生態園では、モミ・ツガ・カヤ・ヒメコマツなどが植えられています。


モミ(籾)
モミ

アカマツ林

 コナラ林とならぶ里山の二次林です。自然の状態では山の尾根筋や岩れき地のような痩せ地にのみ安定して成立します。アカマツは乾燥や貧栄養に強く、生長が早いため、自然災害や森林伐採によって空き地ができたとき、いち早く侵入して林をつくります。こうしたアカマツ林は、放っておくとやがてシイ林・カシ林などに移行してしまいます。しかしアカマツは建材として有用であったため、定期的な下刈りによって人為的に維持管理されてきました。こうした二次林としてのアカマツ林は、特に瀬戸内地方に発達し、関東では群馬や栃木に多く見られます。千葉県では北総台地を中心に分布していますが、最近では少なくなってきています。その原因として、いわゆる松くい虫(マツノザイセンチュウ)による松枯れなどがあげられます。
 生態園では、アカマツを中心にヒサカキ・カマツカ・キハギ・ムラサキシキブなどが植えられています。写真はアカマツの雄花です。

アカマツの雄花
アカマツの雄花

コナラ林(雑木林)

コナラ林(雑木林)

 コナラ・クヌギ・イヌシデなどから成るいわゆる「雑木林(ぞうきばやし)」で、日本の農村(里山)の典型的な景観を作っています。40 年ほど前までは、雑木林は人々の暮らしと密接にむすびついており、コナラ林からとった木がたきぎ・炭などの燃料に、また集められた落ち葉が肥料などにつかわれていました。コナラ林は放置しておくと他の樹木の侵入を受け、やがてシイ・カシ林などに置き換わってしまいます。しかし人間が定期的に木を切ったり、下刈りや落ち葉掻きをおこなうことによって、この変化がくいとめられ、コナラ林は長期間にわたって維持されます。このような森を二次林と呼び、自然林と区別されます。今では炭などの需要がなくなったため人の手がはいらなくなり、コナラ林の姿は大きく変わりつつあります。
 生態園では、コナラを中心にイヌシデ・クヌギ・エノキなどが植えられています。写真は、晩秋のコナラ林です。

コナラ林
コナラ林