幻のイソギンチャク100年ぶりに相模湾で発見

幻のイソギンチャクが約100年ぶりに相模湾で発見

概要

 この度、1914(大正3)年に採集されて以来確認されていなかった幻のイソギンチャク「ヨウサイイソギンチャクCapnea japonica (Carlgren, 1940)」が、相模湾三崎沖で約100年ぶりに再発見されました。

 深海性のヨウサイイソギンチャクは、1914年、三浦半島三崎沖の水深210 mでスウェーデン人研究者のSixten Bock博士によって2個体が採集され、その後1940年に同じくスウェーデン人のイソギンチャク研究者Oscar Carlgren博士によって新種として発表されました。通常のイソギンチャクとは異なり、触手がドアノブ状になった珍しい外観をしていますが、初発見以降、発見された場所周辺における度重なる調査によっても本種が採集されることはなく、幻のイソギンチャクとなっていました。

 2014年2月19日、三浦半島の三崎にある東京大学大学院理学系研究科附属臨海実験所にて実施されたマリンバイオ共同推進機構(JAMBIO)による第2回沿岸生物合同調査において、相模湾三崎沖の水深238–309 mの海底から、ヨウサイイソギンチャクの特徴によく一致するイソギンチャクが採集されました。この標本を詳しく調べるとともに、スウェーデンのウプサラ大学進化博物館に所蔵されているタイプ標本(新種として発表されたときに用いられた標本)についても調査を行いました。両者を検討した結果、このイソギンチャクがヨウサイイソギンチャクであることが確かめられました。また、本種のDNA情報から、本種の分類が従来考えられていたものと上科レベルで異なることがわかりました。

 ヨウサイイソギンチャクが100年以上も再発見されなかった理由は、比較的小型のイソギンチャクであり、十分に触手が伸びた生きた状態の標本を観察しないと識別が難しいこと、新種として発表された論文には標本の全体図がなく詳細な形態についても記されていなかったため、タイプ標本の調査なしには種の同定が困難であったこと等によるものと考えられます。日本産のイソギンチャク類の多くは、ヨウサイイソギンチャクのおかれていた状況とさほど変わらないため、日本では今後も幻のイソギンチャクの再発見が期待されます。

 この結果は2021年6月17日付の日本動物分類学会国際学術誌Species Diversity誌オンライン版で公開されました。また、分館海の博物館では、再発見されたヨウサイイソギンチャクの標本と研究成果を紹介するパネルを展示しています。(期間:6月18日~7月30日)

 

論文タイトル

Kensuke Yanagi and Takato Izumi 2021 Redescription of the Sea Anemone Capnea japonica (Cnidaria: Anthozoa: Actiniaria).

論文著者

柳研介(千葉県立中央博物館分館海の博物館主任上席研究員)
泉貴人(琉球大学特別研究員)

掲載誌

Species Diversity vol. 26: 153-163 (電子版) 2021年6月17日付
DOI 10.12782/specdiv.26.153

 

ヨウサイイソギンチャク Capnea japonica (Carlgren, 1940)
再発見されたヨウサイイソギンチャクの標本(生時に水槽内で撮影したもの)

 

本研究はJSPS科研費JP25440221(柳)及びJP17J03267(泉)の助成を受けて行われたものです。

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海の博物館