ヒラムシの1種を「カツウラニセツノヒラムシ」と名付けました

ヒラムシの1種を「カツウラニセツノヒラムシ」と名付けました

概要

 ヒラムシとは、理科の再生実験に使うウズムシ(プラナリア)に近縁の扁形動物で、特にニセツノヒラムシというグループには鮮やかな色彩を持つ種類がたくさんいます。千葉県勝浦市内にはレジャーのためのダイビングポイントがいくつもあり、水深5m前後の浅い岩礁域では、乳白色の体に紫の小点が縁を囲んでならぶ特徴的な色彩をしたニセツノヒラムシ属の1種が10年以上前から頻繁に観察・撮影されてきました。2020年7月、勝浦市内の潮間帯で本種の標本が採集され、調査されました。その結果、本種は開国まもない幕末の安政年間に、アメリカの北太平洋測量艦隊の生物調査によって琉球王国(現在の沖縄県)で採集された Pseudoceros guttatomarginatus (Stimpson, 1856) という種であることが判明しました。この種類の原記載はとても短く、わずか数行ですが、色彩についてはしっかりと記述されていました。残念ながら、この艦隊の採集物の多くは1871年に起こったシカゴ大火によって研究機関の建物もろとも焼失してしまいました。本種は、新種として記載される時に使われた標本以来、長い間追加個体が得られていませんでした。琉球列島と同じ黒潮圏内である南房総で採集されたこの個体は、本種の初めての追加標本となります。本種には標準和名が見られないため、本研究で調査した標本の産地にちなみ、カツウラニセツノヒラムシの新称を与えました。このヒラムシを観察できるダイビングポイントとして勝浦は全国的に見てトップクラスで、その理由は、本種の主食とする群体性ホヤ類の1種が浅いところに多く生息しているためと考えられます。なお、当館の刊行物・海の生きもの観察ノート12『ヒラムシの博物誌』では、誤って本種を Pseudoceros indicus という別の種として紹介しています。

論文題名

千葉県勝浦市におけるカツウラニセツノヒラムシ (新称) (有棒状体綱: 多岐腸目: ニセツノヒラムシ科) の記録

著者

奧野淳兒 (千葉県立中央博物館分館海の博物館)・瀬戸熊卓見(蝶々魚研究所)

掲載誌

千葉生物誌

掲載巻、ページ、発表年

71巻、1–4 pp. (2021)

 

2020年に勝浦市で採集されたカツウラニセツノヒラムシ

2020年に勝浦市で採集されたカツウラニセツノヒラムシ

 

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海の博物館