当館研究員が都市部で発見されたサワガニについての論文を発表しました。

横浜市内の都市部で採集されたサワガニ

概要

 サワガニは、青森県から鹿児島県までの日本各地の純淡水域に生息するカニで、多くの十脚甲殻類と異なり、幼生がプランクトン期を経ず、卵からかえる時には小さなカニになっています。普通、サワガニは河川上流域の清流に棲むとされています。しかし、元号が令和に変わったごく最近でも、自然河川から離れた横浜の都市部(かつて横浜市電が走っていた地域とお考えください)の神社や寺院の境内でサワガニの目撃例があることがわかりました。そこでこの地域を調査したところ、横浜市中区(元町から徒歩圏内!)や磯子区の湧水にサワガニが生息しているのを確認することができました。この地域は高度経済成長期に急速に開発が進み、多くの自然が失われました。ロンドン自然史博物館には明治時代にこのあたりで採集されたと考えられるサワガニの標本が保管されており、横浜都市部に生息するサワガニは、著しい都市化によって同じく谷戸(谷津)に棲んでいたアカハライモリやカエル類が絶滅してしまったのに対し、崖下のしぼり水などを利用して大正、昭和、平成と元号が変わる間、細々と個体群を維持してきたことが示唆されました。本研究は独立行政法人日本学術振興会令和元年度科学研究費助成事業 (基盤研究C: 課題番号JP19K01146: 研究代表奧野淳兒) の助成を受けました。

論文タイトル

横浜市内の都市部で採集されたサワガニ Geothelphusa dehaani (White) (甲殻上綱: 十脚目)

論文著者

奧野淳兒 (千葉県立中央博物館分館海の博物館)
島村嘉一 (浦安市郷土博物館)
木村喜芳 (相模湾海洋生物研究会)

掲載誌

日本生物地理学会会報, 75: 105-110 (2020)

サワガニ
図. 2019年に横浜市中区で見つかったサワガニ

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海の博物館