勝浦市沿岸の海藻相

海の博物館前の磯に生えるヒジキ

千葉県立中央博物館 分館海の博物館
担当 藻類班  班員 菊地 則雄

1.目的

これまで、勝浦市を含めた千葉県南部外房域沿岸の海藻相については、ごく断片的な報告しかなく、どんな種類の海藻が生育しているのかは充分に把握できていない状況にあります。観察会などをしていても、不明な海藻が出てくる場合があるのです。
そこで、外房域の海藻相とその特徴を明らかにするために、その手始めとして、勝浦市沿岸の海藻相とその特徴を、採集した標本に基づいて調べています。

2.調査方法

勝浦市吉尾の海の博物館前の潮間帯での採集と、勝浦市鵜原の鵜原島周辺での水深20m程度までのスキューバ潜水による採集を、それぞれおよそ月に1回行い、採集した海藻を標本にして登録・保存します。
また、海の博物館ができるまでの準備段階で集められた海藻標本の整理を行います。そして、それらの資料を元に、勝浦沿岸の海藻目録を作成、海藻相の特徴について考察しようとしています。
なお、「海藻」とは「海にすむ藻類」のことで、植物プランクトンなどもその一部となりますが、ここでは、一般に「海藻」を指す緑藻、褐藻、紅藻のうち多細胞で固着性の種に絞って研究しています。

3.平成12年度までの結果と考察

平成7年度~12年度までに、勝浦市吉尾、鵜原周辺で採集された海藻は、177種(未同定種も含む)でした。内訳は、緑藻25種、褐藻47種、紅藻105種でした。また、採集して標本を作成した後、未整理状態の標本があります。

勝浦市沿岸の海藻相についてまとめられた報告は、わずかに、海の博物館建設に先立って平成6年に行われた「県立中央博物館海の分館(仮称)環境調査」の報告書に、勝浦市吉尾、鵜原で確認された海藻目録が見られるのみです。その目録には、未同定種も含めて182種(緑藻25種、褐藻45種、紅藻112種)がリストアップされています。そこに上げられた種のうち、これまでの調査で確認されたものは125種(緑藻16種、褐藻37種、紅藻72種)でした。従って、新たに勝浦市沿岸から記録された海藻は、緑藻9種、褐藻10種、紅藻33種となります。
平成6年に行われた「県立中央博物館海の分館(仮称)環境調査」は、春季と秋季に1回ずつ短期間の調査が行われたのみの断片的な調査です。その反面、海の博物館周辺をやや手広く調査していますので、182種もの種が収集されたものと考えられます。今後調査地を拡大していくことによって、まだ確認されていない種が採集されていくものと考えられます。

勝浦市以外の外房沿岸の海藻相についてのまとまった記録は、わずかに勝浦市に隣接する天津小湊町小湊周辺の海藻リストが公表されているのみです(Knno et al. 1988)。そこでは、253種(緑藻31種、褐藻63種、紅藻159種)の海藻の生育が報告されています。
小湊の海藻リストと今回勝浦市沿岸で採集された種とを比較すると、小湊では、緑藻ナガミル、褐藻コナウミウチワなど、やや暖海性の海藻が採集されています。しかし、勝浦市沿岸での調査はまだ始まったばかりであり、調査範囲もごく限られた地域であるので、今後調査域を広げることによりそのような種が採集される可能性もあり、小湊の方がやや暖海性の海藻相であるかどうかを結論することは、現段階ではできません。

今後、調査対象範囲を広げながら採集を続け、3年程度を目途に勝浦市沿岸の海藻リストを作成し、海藻相の特徴を明らかにしたいと考えています。なお、これまで一部の分類群(紅藻無節サンゴモ類など)の本格的な採集は行っていないので、今後の調査で勝浦沿岸に生育する海藻の種数は確実に増えるものと思われます。

また、平成12年7月19日の調査で、鵜原島周辺の水深約20mから採集された、ハナガタカリメニア Kallymenia callophylloides Okamura et Segawa (紅藻ツカサノリ科)はこれまで千葉県では生育が確認されていない新記録種と考えられます。

 

ハナガタカリメニア ハナガタカリメニア Kallymenia callophylloides Okamura et Segawa

日本の太平洋沿岸中部(東北南部から紀伊半島くらいまで)に分布すると言われる。潮下帯に生育する。