船持中 石碑

第13回 船持中 石碑

船持中 石碑

「あんば大杉大明神 悪魔を祓って よーいやさ」

あんば囃子で有名な大杉神社は茨城県桜村阿波にあり、「あんば様」とも呼ばれている。伝説によると、昔、阿波以東が大海に通じていた頃、遭難船が後を絶たず天地に祈願をしたところ、海面から光り輝く天狗の面が寄り来り、海上安全、天下泰平を約束したという。以後、太平洋岸を中心とした船乗りや漁師らの信仰を集めたが、同時に疱瘡除けの神として各地の祇園祭と結びつき、あんば囃子と共に利根川・江戸川流域に大流行した。利根川水運に携わる船乗り達の信仰も厚く、境内の奉納物には各地の河岸の名が見える。ここで紹介するのはそうした奉納物の一つ。

大杉神社境内にあったもので、「木間ヶ瀬 上阿久津 倉ヶ野 新河岸 [高]浜 船持中」の銘が彫られている。この中に見える木間ヶ瀬は現在の千葉県野田市木間ヶ瀬。上阿久津は鬼怒川上流で、現在の栃木県氏家町上阿久津。倉ヶ野は利根川舟運の遡航終点にあたる河岸場で、現在は群馬県高崎市倉賀野町となっている。新河岸は場所の特定はできないが、当時の新興の河岸場の一つであろう。最後の地名は高浜と読め、霞ヶ浦の北端の高浜河岸かと思われる。河川交通網の端々の地名が一同に会している。

製作年月日については不明であるが、公式な河岸である「関宿」ではなく木間ヶ瀬の名が挙がっていること、新河岸という名が見られることから、江戸後期以降のものと思われる。当時の有力な河岸場の船主たちが共同で奉納したものだろう。関東一円における舟運関係者の交流を見て取れる。

(学芸課 榎 美香 / 2002年)

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