不入斗 いりやまず 行人会(市原市)

調査時期:2010年11月/2011年6月/2012年6月

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6月の「虫梵天」、10月の「お礼梵天」に薬王寺に集まって3本の色梵天作り、境内の水神様に立てます。山へ行くときにも3本の色梵天を作ります。
頭に挿した花のような切り紙をハガチ(ムカデ)と呼びます。

梵天の作り方

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「欄間」の竹ヒネを作る
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型に合わせて垂れ紙を作る
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麻紐で「袈裟組」を結ぶ
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オタレを下げる
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大幣束の型
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「大幣束」
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頭に大幣束1、ハガチ3、三角3、サカキを挿す
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「八角」を2枚重ね、三角を8本挿す
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頭に大幣束1、ハガチ3、三角3、サカキを挿す

手順

葬式では白3本、ほかの行事では色3本の梵天を作る。

  1. 藁ヅトは切り口を上にして半紙を巻く。上部に麻紐を縛り、「あわじ」・「叶」・「はた結び」(総角結び)の順に結ぶ。この紐結びは「袈裟組」といい、麻を撚った紐を用いるのが正式。
  2. 白のオタレは石州半紙を1本の梵天について10枚、4つに切って使う。型紙で切れ込みを入れ、5枚ずつ8組にして上をひねっておく。また色のオタレは赤・黄・緑・青・紫の5色の色紙を各1枚ずつで2組作る。以上を袈裟組の麻紐に挿しこむように下げる。
  3. 藁ヅトの上には「八角」と呼ぶ星型正八角形に切った紙を2枚重ねてのせ、その上に「大幣束」1本、サカキ、「ハガチ(ムカデ)」3本、「三角」3本を挿す。
  4. マダケの支柱を挿し、その下段に「小幣束」とサカキを結ぶ。
  5. 立てる際、支柱の根元に2枚重ねの「八角」を敷き、「三角」を8本立てる。また、3本の梵天を竹ヒネの「欄間」で1組に結わえ、中央に「八角」と「大幣束」をつける。

現在の行事と梵天

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水神様に立つ梵天

行屋堂はもともと村の草分けの家の墓地にあったが、古くなって取り壊した後は、薬王寺の一室を使っている。祭壇には大日如来の厨子と三山の掛け軸を祀っている。

昭和30年ころまでは八日講として毎月集まっていたが、現在は6月末に虫梵天、10月にお礼梵天の行事があり、それぞれ色梵天を3本作り、寺の水神様に立てる。虫梵天は虫よけ(豊作祈願)、お礼梵天は収穫感謝の行事である。

三山登拝の近況と梵天

三山へは一生に一度行くものとされてきた。山へ行くのは男性だけで、山へ行くと行人会へ入る。宿坊は養清坊で3月に檀那廻りに来る。近年は行人会のうち気心の知れた同年代の一部メンバーで三登会という会を作り、4~5年に一度、登拝を行っている。

登拝前に安全祈願のため、寺の水神様を「仮塚」として、色梵天3本を立てる。この色梵天は山から帰ってくると集落のはずれの供養塚に持っていく。また、山へ行った人の人数がまとまると供養塚に腰梵天を埋め、その上に記念の石碑を立てる。

行人の葬式と梵天

行人の仲間が葬列の先頭に立つ。形は色梵天と同じだが白一色に作った梵天3本を墓地に立てる。最近は黄や紫の色紙を入れることもある。

梵天や行事の変化

宮本袈裟雄報告(1979)に戦前のあり方として、登拝前に、古行が登拝者全員に梵天を一本ずつ作って与え、登拝者はそれに氏名を記して行屋に立てて出かけたと記される。また八日講では毎月八日に月並みの講が行われ、ほか5月に水神を祀る五穀成就の祈祷、8月に川垢離をとって祈祷する「御礼行」、10月に供養塚の掃除をする「お塚刈」が行われたこと、葬式に5本の梵天を作り、3本を墓に、ほかは供養塚と先祖の墓に立てたことが記されている。