吾妻神社の神輿は、岩瀬の浜で海に入る(富津市 吾妻神社の馬だし祭り)
千葉県(房総半島)には海に関わる神事や祭礼が、数多く伝承されています。三方を海に囲まれ、海とともに生きてきた房総の人々の心性を反映するものと考えられてきました。
「房総のお浜降り習俗」として、国により「記録作成等の措置を講ずべき無形の文化財」に選択されている祭礼群もその一つです。これは神輿が海辺に向かい、浜で神事を行い、神輿を担いで海に入り潮を浴びるもので、五穀豊穣や大漁、安産や子育て、疫病退散などの願いが込められています。千葉県全域に広く分布し、「おはまおり(お浜降り・お浜下り)」「おはまくだり(お浜くだり)」「しおふみ(汐踏み)」「おはまで(お浜出)」などと呼ばれ、現在確認できるものだけでも160を数えます。その形は多様で、また古くからの神観・自然観を反映する豊かな内容を持っていますが、全貌が、未だ明らかになっているとはいえません。
千葉県立中央博物館では令和元年(2019)度から情報収集を開始し、その成果の一端を令和4年度秋の展示「おはまおり-海に向かう神々の祭-」で発表しました。また文化庁の補助金を活用して、令和4年度から6年度の3年間、記録映像の作成に取り組みました。これらの成果から、千葉県内で多様な様相を見せる「おはまおり」の一端をご紹介します。
記録映像等の措置を講ずべき無形の民俗文化財「房総のお浜降り習俗」記録映像
漁師町ではぐくまれた勇壮な祭り
勝浦の秋祭り
●勝浦市浜勝浦・勝浦
朝市やカツオの水揚げで有名な浜勝浦・勝浦地区では、秋に遠見岬(とみさき)神社と八幡神社の祭りが続けて行われます。房総の開拓神、天富命(あめのとみのみこと)を祀る遠見岬神社では、慶長6年(1601)の津波で倒壊した社殿から御神体が流れ着いたという尊磯(たかいそ)の浜に、「おはまくだり」をします。漁師が篤い信仰を寄せる八幡神社の祭礼では、神輿の船渡しで海上安全と大漁を祈願します。
勇壮な神輿の揉み・差しや「ホラー大漁」の掛け声、神輿唄の唄い継ぎ、乳幼児を手渡しで神輿をくぐらせる「胎内くぐり」などにご注目ください。
「勝浦の秋祭り」令和6年(2024)普及編映像(約30分) ※記録編映像を視聴希望の方は資料管理課<shiryo◇chiba-muse.or.jp>までご連絡ください。(◇を@にかえてください) |
海のない地域の「おはまおり」
旧埴生郡の祇園
●成田市
成田市と栄町にまたがる旧埴生郡では、河川や湖沼を舞台に「おはまおり」が行われてきました。現在は、神輿に水をかける形になっていますが、ひと昔前までは、川や沼に神輿を担いだまま入るほか、神輿を投げ入れるなどしていました。飾りのない白木の神輿を投げて転がして、稲が植えられた田の中に担ぎ入れるなどの荒々しい担ぎ方が特徴で、五穀豊穣と疫病退散を祈る祭りでした。
また、上福田・大竹台の祇園は、暴れ神輿以前の古い祭りの内容を継承している貴重な祭礼と考えられます。
- 成田市 寺台の祇園
- 成田市 松崎の祇園
- 成田市上福田と大竹台の祇園
- 成田市 長沼の祇園
「旧埴生郡の祇園」令和6年(2024)普及編映像(約30分) ※記録編映像を視聴希望の方は資料管理課<shiryo◇chiba-muse.or.jp>までご連絡ください。(◇を@にかえてください) |
12年に1度、繰り広げられる祭礼絵巻
松澤熊野神社式年神幸祭
●旭市 ●香取市 ●東庄町
千葉県東北部には「おはまおり」を伴う式年祭(一定の年ごとに開催される祭り)が多く伝承されています。中でも松澤熊野神社式年神幸祭は12年に1度、卯年に開催され、神輿は芸座や手踊りなど氏子地区が仕立てた芸能を伴い、50キロにも及ぶ道のりを巡ります。渡御の道すじに設けられる番所では、熊野神社や芸能団体の使者が殿様に通行の許可を求め、その口上や所作が見どころです。
そして祭神が紀州熊野から伝来し上陸したと伝わる三川浜での「おはまおり」が、祭りのクライマックスです。
「松澤熊野神社式年神幸祭」令和5年(2023)普及編映像(約35分) ※記録編映像を視聴希望の方は資料管理課<shiryo◇chiba-muse.or.jp>までご連絡ください。(◇を@にかえてください) |
オダチを打ち付けて招福除災
古新田の天王様
●印西市
利根川中流の地域には、オダチ(木太刀)を担いで集落をめぐり、家内安全・無病息災・五穀豊穣などを祈願する行事があります。オダチは相模大山信仰の納め太刀に由来しますが、下総地方では天王祭や祇園祭礼で招福除災の呪具のように扱う様子を見ることができます。特に印西市域には、オダチそのものをテンノウサマと呼んで地面に叩きつける形が多く、旧埴生郡域で白木の神輿を荒く扱う様子と共通する心意が伺えます。
印西市古新田では集落を廻り終わると、集落境の亀成川でオダチに掛けた縄を鉈で断ち切り、縄をたわし代わりにオダチを洗って、かつてはその縄を川に流しました。
「おはまおり」と名の付く祭事はありませんが、「おはまおり」に結び付く注目すべき内容を持つ祭礼として、撮影を行いました。
※令和4年度は「おはまおり」展でのオダチ展示のため、最後のオダチ洗いを、縄をつけたまま川の水を汲んで洗う、通常とは違う形で行っています。
「古新田の天王様」令和4年(2022)ダイジェスト版映像(約5分) ※記録編映像を視聴希望の方は資料管理課<shiryo◇chiba-muse.or.jp>までご連絡ください。(◇を@にかえてください) |
令和4年度秋の展示「おはまおりー海へ向かう神々の祭-」から
- 安房神社御当地鎮座1300年祭
- 安房神社例祭(安房神社んマチ)
- 洲宮神社祭礼(洲宮んマチ)
- 勝浦の秋祭り/遠見岬神社と八幡神社の祭礼
- 東大社式年神幸祭(おおじん様のおおみゆき)
- 玉前神社と鵜羽神社の祭礼(十二社祭りと十日祭)
- 香取神宮式年神幸祭
- 鶴谷八幡宮例大祭(やわたんまっち)
- 飯香岡八幡宮秋季大祭(はちまん様の祭り)
- 寒川神社例祭(さんがんマチ)
- 人見神社例大祭(妙見様んマチ)
- 吾妻神社祭礼(お吾妻様のマチ)
- 大原の祭礼(大原はだか祭り)
- 須原稲荷神社祭礼(須原の祭り)
- 白間津日枝神社祭礼(白間津のオオマチ)
- 佐原本宿八坂神社祭礼(本宿の夏祭り)
- 古新田の天王祭
- 名古屋須賀神社祭礼
- 三ツ堀香取神社祭礼(オオハラクチ・三ツ堀のどろ祭り)
- 和良比皇産霊神社祭礼(デイロクデン様の祭り・どろんこ祭り)
